初夏のすれ違い / カラダ編-9
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亜紀子の学校のGWは長い。
創立記念日やら、体育祭の振替休日やらを無理矢理持ってきては、毎年平日を潰している。
今年のその始まりは、意外にも平和なものだった。
部活があったおかげで、サクとは会話もなんの約束も無しに下校できた。
番号交換した当日の夜も電話は来なかったので、ホントに一応だったのかな、と思っている。
そしてなにより、家に帰ると兄がいなかった。
最近は両親が家にいても手を出してくるので、兄がいると常に身構えているのだ。
もちろん、この間のように勉強を教わりに兄の部屋に行く自分も悪いのだけど。
母が夕飯を作るキッチンに向かって「ただいま」の声だけかけて、部屋にあがる。
ドアをあけ、荷物をおろして着替えようとして…
…―なんか違和感?
部屋を見回すと、見慣れてはいるが、あってはならないモノを発見した。
自分の荷物にまぎれて置いてあるバッグ…
…これお兄ちゃんの…?
てゆーか、中身が"アレ"のバッグじゃん!
慌てて開くと、色とりどりの妖しい玩具が目に飛び込んできた。
こんなモンをあたしの部屋に…!と怒りが湧いたが、端に刺さった手紙に気付く。
『あ〜こへ
一週間、旅行してくる。
さみしいだろうから貸してやるよ。
帰ったらその分、可愛がってやるからな〜』
「…わー…」
読み終わって思わず声をあげた亜紀子の心中は複雑だった。
安堵も照れも怒りも嬉しさも悔しさも…。
どれが正しい反応なんだっけ、と混乱してしまうくらいに。
いない事にはほっとするし、代わりにオモチャを与えられたのは心外だし。
「でっ、でも使わないもんね、絶対!」
やっと最後に残った感情を、わざわざ声に出して決心する。
着替えて夕飯を食べてシャワーを浴びると、目が慣れたバッグの存在は、すっかり気にならなくなった。
気になるのは…ケータイだ。
風呂からあがるとチカチカ光っていて、胸騒ぎはもちろん的中。
《着信あり:サク 2件》
…―とうとう来たっ
シャワーを浴びるわずか1時間弱の間に、二回もかけてきたらしい。
またかかってくるか、かけ直してやった方がいいのか、亜紀子は迷ってしまった。
…―このまま無視しちゃだめかな…もう眠いし。
恐る恐る布団に入り、恐る恐る目をつむり、寝ようとしてみる。
…ブー、ブー、ブー…
…―ぅわ、来たっ!
あたし、もう寝てます!
言い訳を唱えながら長い着信をやり過ごす。
やっと部屋が静寂を取り戻し、10分ほど息を殺すようにして待ったが、次は無かった。
そして、うとうとの先、眠りが深くなる瞬間に、短いバイブの音を聞いた。