-続・咲けよ草花、春爛漫--17
「お前、さっきのを俺のせいにする気かよ」
「うう、それは俺が悪かったて。でも、ムラムラきたんはほんまやし……」
落ち込んだようにしゅんと肩を落とす紺野。俺はため息交じりにその肩を叩く。
「ムラムラ来られても困るんだよな」
「でも、ほんまやもん。他に心当たりとか、ない?」
そう問われてぎくりとした。
俺が黙っていると、紺野は肩を竦めて言う。
「さっきのは俺が悪かった。けどな、正直ミハルがエロいいうんもほんまやで」
その声は、からかうというよりは本当に忠告するようで。
心当たりのありすぎる俺は、ぎゅっと制服の裾を掴んだ。
「気ぃ付けや。でもって、何かあったらすぐに言って。部活中でもすっ飛んで行くわ」
にかっと笑う紺野。俺もそこでふ、と笑った。
すると紺野は男友達にするように俺の肩に拳を押しつけると、またなと言って教室を去った。
俺もまたな、と廊下を歩いていく紺野に手を振った。
それから彼の姿が見えなくなったところで、俺はその場にへたり込む。
「ちっくしょ……情けねぇ」
紺野の言葉が頭の中を反芻する。
今まで自分を女として認めたくなかった俺だったが、そうは言っていられないという事実を改めて突きつけられる。
――エロいねん
――他に心当たりとかない?
(心当たり? ありまくりだぜ、ちくしょう)
エロいといわれるのは不本意だが、鈴代やその他の男共にセクハラを受けていることは事実。少し身体を許してしまうとそのまま流されて行ってしまうのも鈴代で学習済みだ。気を付けなければならないことは自覚していた。
「しっかし紺野の奴」
彼女がいるくせに、俺なんかに迫るなんて。
(……それほど俺は魅力的なんだろうか)
そんなふうに自惚れてみるが、虚しい。
(けど、最後のあの別れ際の――男同士の挨拶って感じ、嬉しかったな)
この身体になってからどこへ行っても女扱いの俺だ。ああいった挨拶の仕方は新鮮で嬉しい。
それだけで少し晴れた気分になるのだから、俺は単純だ。
不意に校庭に目をやってみる。
茜色の空にカラスが鳴き、部活の終わった連中のざわめきは風に溶けた。
綺麗な夕日。
明日もきっと、晴れるだろう。