-続・咲けよ草花、春爛漫--10
(つ、突っ込むもんがねえ――!)
逡巡する俺に、くすりと函部が笑う。
「先輩、女の子同士は初めて? こうやって、するの……」
逆に押し倒され、圧し掛かられる。
俺の太腿にまたがると、ゆっくりとその腰を動かし始めた。
そして自身の腰を動かしながら俺のシャツに手をかける。
「あん……先輩のおっぱい、柔らかい……」
興奮したように上ずった声で、ブラを押し上げて直に胸を揉んでくる。男のものとは違う、繊細な指でゆっくりと揉みしだく。
「あっ……ん!」
「先輩、感じてる? すごく……エッチな顔してる」
舌舐めずりをした函部の腰がやらしく動く。腹から腰にかけての波打つようなその動きに、俺は昂ぶっていた。男だったら、完全に勃起してる。
だが、今は女の姿だ。俺のあそこは――
「濡れてる」
完全に濡れていた。
函部が口角を上げながら、俺の秘所に触れていた。僅かな水音が聞こえる。
「や、あぁっ……ダ、ダメだ……!」
「どうして? キスとおっぱいだけでこんなに濡れてるのに、ダメじゃないでしょ、ミハル先輩?」
顔が熱くなったのが分かる。俺が顔を背けると、函部はくすりと笑って俺の頬に手を這わせて再び口付けてきた。
「可愛い……いいよ、先輩。もっと乱れて……?」
その時だった。
がちゃり、と扉が開く。顔を覗かせたのは、鈴代だった。
――鍵の意味、ねーじゃん!
「お……お楽しみ中か」
さすがに戸惑った様子の鈴代。
奴は慌てて扉を閉めようとし――ちらりと顔を覗かせて言った。
「俺も混ざっていい?」
「消えてください、邪魔ですから」
さっきの甘い声はどこへやら。
不機嫌さを露わにした低い声で間髪入れず、函部は言ったのだった。
結局、函部との続きは鈴代のおかげで中断された。
残念さと安堵が半分半分。鈴代は明らかに残念がった様子で可愛げもなく口を尖らせ、函部は更に鈴代への敵意を募らせたようだった。
二人の間に挟まれた俺は、正直、どうしていいか分からない。
というか、どうして俺がこんなに気を使わなきゃならないんだって感じは否めない。
(ちくしょー、久々の部活だってのに)
なんて思ってみたりはするが、実際、部活といってもそんなにすることもない。今の時期にすることといえば、年に三回発行する、創作や既作品の批評をまとめた部誌のための準備くらいだ。俺は評論――といっても大したものじゃない――のために、マイナーな私小説を二、三見つくろって読んでいた。
「な、なあ。お前らは六月に出す部誌に何載せるんだ?」
「部誌?」
首を傾げる函部に俺は苦笑して言う。
「昨日御形先輩が説明してくれたろ? うちは年に三回、文芸誌を発行してるんだ。六月号と、十月の文化祭号、それと三月号」
指折り数える俺。鈴代はつまらなそうに頬杖をついたままで呟いた。
「面倒だなー、この前三月号出したばっかじゃん」
「お前な、そう思っていても新入部員の前でそういうこと言うんじゃねぇよ」
「やる気ないですね。辞めたらどうですか」
呆れて言う俺に被せて、函部が辛辣な言葉を浴びせる。
しかもその口調は俺や小日向、あるいは御形先輩に対するものとはまったく違った冷たいものだ。
少し頭の弱そうなふわふわした喋り方しかできないと思っていた俺は面食らう。
しかし怯むことなく鈴代はにっと笑った。
「キッツいなー、函部。お前だってうちに入ったのはミハル目当てで文芸なんて興味ないんだろ?」
「でも、由里菜は鈴代先輩よりやる気はあると思ってますけど?」
文芸なんて興味ないってところ、否定しないのかよ。
俺は心の中で突っ込みつつ、本のページを捲る。しかし内容はまったく頭に入ってこない。