ヒロ兄ちゃんとユキ姉ちゃん-16
三日後ヒロ兄ちゃんが店に来た。
「裕貴君無理しなくてもいいんだよ....」
「無理はしてません....ただ何かしていないと....自分が自分でなくなりそうで....どこにいてもユキの事を思い出してしまうんです....それはここでも同じだと思うけど....仕事をしている時は多分ユキの事を思い出さないですむと思うから.....もしも足を引っ張るようならすぐに帰るように言って下さい。素直に指示に従いますから....お願いします。」
ヒロ兄ちゃんは頭を下げた。それからヒロ兄ちゃんは今まで以上に働いた。ただ一度も笑顔を見せなかった。それから一週間ぐらい過ぎた日の午後、父と母とヒロ兄ちゃんが夜の仕込みをしている時、
「すみません!鷹矢さんはいらっしゃいますか?」
裏口から一人の少女が顔を出した。
「里美ちゃん?どうしたの?」
ヒロ兄ちゃんが少女に声をかけた。
「ユキの妹の里美ちゃんです。」
ヒロ兄ちゃんは里美さんを父と母に紹介した。
「姉がお世話になりました。」
里美さんは深々と頭を下げた。
「こちらこそ....で今日は?」
「鷹矢さんにお話があって....お時間は宜しいでしょうか?」
「ああ....少しぐらいなら....」
ヒロ兄ちゃんは里美さんのほうに歩いて行った。
「話って何?」
「これをお返ししようと思って....」
里美さんは小箱をヒロ兄ちゃんに差し出した。
「これは.....」
「ハイ....」
里美さんはヒロ兄ちゃんに頷いた。
「お兄ちゃんがお姉ちゃんに渡そうとした物です.....」
里美さんはヒロ兄ちゃんの顔を見つめていた。
「ゴメンナサイ....お姉ちゃんの棺の中に入れるつもりだったんだけど....入れ忘れてしまって.....今お兄ちゃんにこれをお返しするのは躊躇われるんだけど.....時間が過ぎる程お返しし辛くなってしまうから.....」
「ゴメン....それ....受け取れない.....」
ヒロ兄ちゃんは言葉を絞り出した。
「えっ?」
里美さんは不思議そうな顔をした。
「俺にはそれを捨てられない.....それを持っていれば、どうしてもユキを思い出してしまう....だから....受け取れない.....」
それから暫く沈黙が続いた。
「里美ちゃん....良かったら貰ってくれないか?」
「えっ....でも.....」
里美さんは躊躇っていた。ヒロ兄ちゃんは両手で小箱を持つ里美さんの両手を外側から包み込んだ。
「ユキの形見として....お願いします.....」
ヒロ兄ちゃんは頭を下げた。
「お兄ちゃんがそう言うなら.....大切にします......」
里美さんはそう言って笑ったように見えた。
「ありがとう.....」
再びヒロ兄ちゃんは頭を下げた。
「ネェ...ヒロ兄ちゃん」
ヒロ兄ちゃんは振り返り私のほうを見た。私はヒロ兄ちゃんのそばに行って、
「ユキ姉ちゃんはどうしてお店に来ないの?」
その一言で周りの空気が凍りついた。しかし空気が読めなかった私は続けてしまった。