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一枚の写真
【初恋 恋愛小説】

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ヒロ兄ちゃんとユキ姉ちゃん-1

私には大切にしている一枚の写真がある。それは二十年以上前の古い写真だがとても大切な写真である。その写真に写っているのは、四歳になったばかりの私と、その私を左腕に抱きかかえているヒロ兄ちゃん、そしてヒロ兄ちゃんの左で幸せそうに微笑むユキ姉ちゃん、その三人の写真である。ヒロ兄ちゃんは、名前を鷹矢裕貴<タカヤヒロキ>といい、ヒロキのヒロを取ってヒロ兄ちゃんと呼んでいた。ユキ姉ちゃんは、当時まだ幼かったので名前を覚えていない。ユキという名前だったのか、例えばユキコとかユキエとかのユキなのかさえ覚えていない。ただ父や母がユキちゃんと呼んでいたので、ユキ姉ちゃんと呼んでいた。私の父は小さなレストランを経営している。ユキ姉ちゃんは高校生の時から父のレストランでバイトをしていて、ヒロ兄ちゃんは大学生になってから父のレストランでバイトを始めた。二人は同じ大学の同級生で、バイトがきっかけで付き合い始めた。二人は大学の二年間で取れる単位を全て取っていたので、三年生の時には週三日、四年生の時には一日
だけ大学に行けばいいようになっていた。父の配慮で、バイトのシフトを同じにしてもらっていたので、二人はいつも一緒にいた記憶がある。母も父のレストランを手伝っていたので、私はレストランの休憩室でいつも一人で遊んでいた。そんな私と遊んでくれたのがヒロ兄ちゃんとユキ姉ちゃんだった。だから私は二人の事が大好きだった。二人はゼミも一緒だったので、大学でも一緒だった。大学がある日は夜だけで、その他の日は一日シフトが入っていた。二人がデートの時はシフトを外してもらって、休みを貰っていた。


ゴールデンウイークが直前に迫った金曜日に、
「なぁ…ユキ?明日休みを貰っただろう?」
「うん....」
「明日なんだけど、水族館にでも行かない?」
「水族館かぁ....」
「嫌?」
「全然!ヒロとならどこだっていいよ。」
そう言って、ユキ姉ちゃんはヒロ兄ちゃんに笑いかけた。
「じゃぁ水族館で決まりね。」
「うん!楽しみにしてるね!!」
私は二人の会話を黙って聞いていた。
「ヒロ兄ちゃんとユキ姉ちゃん明日水族館に行くの?」
「えっ?」
二人は私のほうを見た。
「そうだよ!」
そう言って笑った。
「いいなぁ....私も行きたいなぁ。」
父も母も土曜日、日曜日はいつも仕事で、どこかへ連れて行って貰った事がなかった。保育園の友達は休みの次の日になると、楽しそうに休みの日にあった事を話していたが、私は話す事がなかった。だからいつも淋しかった。友達が羨ましかった。休みの次の日が嫌いだった。
「美香!」
母の私をたしなめる声がした。私は聞こえないフリをして、
「いいなぁ。私も行きたいなぁ。」
「美香!いい加減にしなさい。迷惑でしょ!!」
母の口調が強くなった。
「だぁってぇ。」
私がヒロ兄ちゃんの顔を見ると、ヒロ兄ちゃんは困った顔でユキ姉ちゃんを見つめていた。
「ヒロ!!」
ユキ姉ちゃんはそう言って大きく頷いた。
「いいの?」
ヒロ兄ちゃんが聞くと、
「うん!」
ユキ姉ちゃんがそう言って笑った。
「美香ちゃん、俺とユキと三人で、明日、水族館に行く?」
ヒロ兄ちゃんが笑顔で私に聞いてきた。
「うん!行く!!」
私が嬉しそうに答えた。
「ダメよ。美香!迷惑でしょ!!」
母の厳しい声がした。


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