異界幻想ゼヴ・アファレヒト-22
部屋に入ると、ジュリアスは壁を探った。
指先でスイッチを見つけ、ぷちっと押す。
途端、部屋中に明かりが溢れた。
電気設備ではないが、リオ・ゼネルヴァには『魔具』と呼ばれる便利グッズがある。
ここにあるのは昼間の休眠状態時にエネルギーを蓄えておき、任意の起動時に照明として利用できる代物だ。
蝋燭やランプと比べるとずいぶんお高いので一般家庭には普及していないが、ここは王城。
ゲストが快適に過ごせるようにとの配慮から、各部屋に魔具が設置されていた。
他にも通信機として稼動していたり強力な施錠具になったりと、便利な機能を備えたアイテムなのである。
ジュリアスは、部屋を見回した。
毛足の長い絨毯に精緻な細工の施された家具など、贅を尽くした居間。
隣の部屋に天蓋付きの広いベッドと隣接するバスルームがあるのは、幼い頃に王城を歩き回った経験上知っている。
「あ〜の〜……」
背後からか細い声で抗議され、ジュリアスは我に返った。
「ここ、あなたの部屋じゃないわよね?」
「もちろん、お前にあてがわれた部屋だ」
体をずらし、深花を部屋に入れる。
「じゃあなんであなたがここにいるのよ」
部屋に入らず部屋の前で、深花は言った。
「アフターケアのついでに、頼み事があるんだよ」
ジュリアスは両手を広げ、深花の眼前に突き付ける。
「何……これ……」
その惨状に、深花は絶句する。
ジュリアスの両手は、膿んでいた。
指の付け根から手首近くまで皮が剥がれ、じくじくと体液が滲んでいる。
「さっき、神機同士で組み合ったろ?そのせいなのか、異常に治りが遅い。ティトーやザッフェレルに心配かけるのは忍びないし、な」
神機の傷が、ジュリアスへフィードバックされたという事か。
確かにこれでは、ヘルプが欲しいだろう。
納得した深花は、部屋に入った。
「先に化粧落としてこい。頼み事してる立場なんだから、俺は後で構わん」
「うん」
深花が寝室に入るのを、椅子に腰掛けながらジュリアスは眺めた。
ふと、ある事に気づく。
「おい、深花……お前、一人でドレス脱げたっけか?」
気づいた事を、隣の部屋へ投げ掛ける。
城へ来る前はファスティーヌの侍女が着付けしてくれたろうから苦労はないはずだが……華やかに着飾る事に縁のなかった女がはたして、凝ったドレスを一人で脱げるだろうか。
「……手伝ってくれる?」
寝室から聞こえた情けない声に、ジュリアスは苦笑しながら立ち上がった。
指は使えるから、問題はないだろう。
寝室に入ると深花はベッドから少し離れた場所にある衣装棚を開け、何かを探していた。
寝間着と下着とボタン掛け機を取り出すと、ジュリアスに気づいて背中を見せてくる。
「お願い、できる?」
「もちろん」
ジュリアスは深花の背中にボタン掛け機を滑らせた。
留め金の外れたドレスが、ばさりと足元に落ちる。
純白のファンデーションだけが残り、何とも艶っぽい格好である。
ビスチェとショーツとガーターベルト姿を恋人でもない男に晒した時点でかなり大胆な態度だと気づき、深花は真っ赤になった。
窮屈なドレスから解放される事にばかり神経がいってしまい、自ら掘った墓穴だ。
とはいえ、女の裸なんぞ見慣れているだろう男相手にむやみに恥ずかしがるのも不毛に感じられ、深花は下着姿のままでジュリアスの服を脱がしにかかった。
上着を脱がせ、シャツをはだければ筋骨逞しい肉体が現れる。