異界幻想ゼヴ・アファレヒト-19
「さて、茶番終了のために次は本当に俺と踊ってもらおうか」
立ち上がって深花のために椅子を引きながら、ジュリアスは言った。
「ティトーさんとフラウさんは?」
ザッフェレルに向かって礼をし、椅子に腰掛けながら深花は尋ねる。
席にいたのはザッフェレルとジュリアスだけで、二人の姿が見えない。
「あそこに決まってんだろ」
ジュリアスが、視線で舞台を指した。
つられて目をそちらにやると、二人が舞台の真ん中で優雅に踊っている。
美男美女の組み合わせだけに、二人は一際目立っていた。
赤銅色の髪とドレスの色とが互いを引き立て合ってため息をつきたくなる美女っぷりのフラウを眺めた後、ジュリアスに視線を移す。
五年も一途に想われ続けていても、これほどの女性相手になびかないとは……この男、一体どういう審美眼をしているのだろう。
「……年上が嫌いとか?」
「何の話だ?」
「いや別に。じゃ、早めに済ませましょうか?」
一曲踊りきって上がっていた息も落ち着いてきた所で、深花は提案する。
「だな」
ジュリアスが腕を貸し、深花は再び立ち上がった。
舞台まで歩いていき、ティトーとフラウの近くに陣取る。
二人に気づいたティトーが声をかけようと口を開いた、その時だった。
突然、三人……ジュリアス・フラウ・深花のペンダントがまばゆい閃光を放つ。
「何だっ……うわっ!?」
すさまじい音が轟き、宴会場が面している庭で何かが光った。
ジュリアスから急に抱き締められたのは、閃光を直接見てしまって目潰しを食らわないためのとっさの措置だろう。
音と光が止む頃、四人は庭に面した場所まで駆け寄っていた。
「嘘……」
思わず、深花は呟く。
庭に立っていたものは……神機が三体。
レグヅィオルシュとマイレンクォードに酷似した二機と、そして……見た事のない、機体。
黄土色のベースにレモンイエローの縁取りを施した……土の、神機。
レグヅィオルシュが、顔を上にやった。
両眼からビーム状の光が溢れて、三十半ば頃の一人の男の姿を形作る。
短く刈り込まれた黄金の髪。
猫のように鋭い、同色の右目。
大きく抉られたらしく、左目は縦に裂けて治癒した傷痕に覆われてしまっている。
ザッフェレル並かそれ以上に筋骨隆々とした体格は、簡素な服とプロテクターで覆われていた。
マイレンクォードが顔を上に向け、同じ事をする。
こちらは二十代後半の、長身の男だ。
胸の上辺りまで伸びた水色の髪。
細い目は異常な情熱で爛々と輝き、偏執狂的な表情が顔を歪めている。
首から下を被う紫紺のスーツとグローブ、肩と腰を守るプロテクター。
最後に……土の神機が、顔を上向ける。
形作られたのは、女の子。
まだ十代前半といった風情の、凹凸が少ない華奢な肢体。
赤に近い濃いピンク色の髪は大振りのカールを描きながら胸の辺りまで流れ落ち、同色の瞳は好奇心で輝いている。
服装は、マイレンクォードの男と同じスーツにプロテクターだ。
彼女だけ、髪の間から尖った耳が覗いている。
「はじめましてとなるかな?我らが愛しい宿敵達」
金色の大男が、口を開いた。
「賑やかに過ごしている所に申し訳ないが、本日は挨拶のためにこうして罷り越した」
「はじめまして、ミルカ」
無邪気……天衣無縫とすら言える声で、少女が言う。