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異界幻想
【ファンタジー 官能小説】

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異界幻想ゼヴ・アファレヒト-18

「喜んで」
 はにかみながら頷き、差し出された手を受け取る。
「貴公子、ウィルトラウゲータ・アセクシス・エラんが・バラオート・カイゼぜんたージュ・バラト・ずりだス・ダン・クァードセんバーニの仮面か……長い名前ねぇ」
 名前を思い出すだけで、舌を噛んでしまった。
「色んな家を併合してきた証だ。俺だって、好きで長い名前になった訳じゃない。それと、いくらなんでも噛みすぎだ」
 穏やかな表情は変えぬまま、口を動かさずにジュリアスはそう言う。
「それはごめん。しかし、なるほどね……」
 歩き出しながら、深花は呟いた。
 伯爵に格上げされて間もないティトーの実家や一つあれば済む王室と違い、建国当初から国政に関わっているという大層な家柄だから吸収合併している家がたくさんあっても別におかしくはないのだ。
「ジュリアス少尉」
 王家の席の近くを通り掛かった時、ユートバルトがジュリアスに声をかける。
「なんでしょう?」
 ジュリアスは足を止め、殊更丁寧に問い返した。
「申し訳ないが、深花殿とのダンスはお譲りいただけないかな?」
 ティトーとそっくりな顔が、微笑みを湛えて深花を見つめている。
「それは……殿下のダンスは、ファスティーヌ伯爵令嬢が予約しておいででしょう」
「いやいや、令嬢は気前よくファーストダンスを譲ってくれているよ」
 ユートバルトの顔に、苦痛を思わせる微妙な表情が差し込んだ。
「我々王室からミルカへ親愛の情を示すため、ここはぜひとも譲ってもらいたいものだな」
 ジュリアスの表情が、険悪になる。
「ミルカの発見者は私です。彼女も私とのダンスを快諾している。邪魔はしないでいただきたい」
 ユートバルトの顔に、不快の色が差した。
「王室として彼女にダンスを申し込んでいるのだよ、少尉」
 官位にアクセントを付けて言葉を強調し、ユートバルトが立ち上がる。
「それが不満かね?」
 ジュリアスは悔しそうに目を伏せ……深花をその場に置いて踵を返した。
「では深花殿。一緒に踊っていただきましょう」
 ユートバルトに連れられて、深花は舞台に足を運んだ。
 優雅な舞踏曲が鳴り始め、二人はすべらかなダンスを始める。
「びっくりさせてしまったかな?」
 王子の問いに、深花は首を横に振った。
「私の箔付けとは聞いてましたから……お二方が役者で、そっちの方が驚きです」
 答を聞いたユートバルトは、くすくす笑う。
「私もジュリアスも、将来は国政に関わる身だからな。この程度の掛け合いは台本なしでも摺り合わせられるくらいの連携は、習得済みなのさ」
 くるり、と体が回転する。
「しかし、お世辞抜きで上手だね。ここまでとは思わなかった」
「いい教師が二人、付きっきりで指導してくれましたから」
「なるほど……君とフラウが恥をかかないよう、二人ともずいぶん注意しているんだね」
 一曲踊りきった二人は互いに礼をしあい、舞台を離れる。
 席に戻った深花は、ザッフェレルの傍に一人の男を見出だした。
 年は、三十半ば頃に見える。
 繊細と陰湿が紙一重で同居する表情が張り付いているせいで、美形と表現しても差し支えない顔立ちが台なしだ。
 おそらく彼が、サマレフェロアだろう。
 五人の席から少し離れた場所に配下と思われる六人の男達を控えさせている辺りに、彼の豪胆とは言えない気性がうかがえた。
「なかなかうまく踊れていたではないか」
 深花が戻ってきたのに気づいたザッフェレルは、横で何やらねちねち言っていたサマレフェロアの事をさっくり無視してねぎらいの言葉をかける。


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