異界幻想ゼヴ・アファレヒト-13
門の前で縦隊中の楽士が短くファンファーレを吹き、到着を知らせる。
やがて入ってきた隊の真ん中には、六頭立ての馬車がいた。
その脇には、巨大な軍馬に跨がった人物が一人。
ロイヤルブルーのエナメルを施したプレートメイルを身に纏い、サーコートを羽織っている。
その人物は馬を二人の前に止めると、鎧を着けている割には身軽な動作で馬から下りた。
白い羽根飾りの付いた兜を脱ぐと、細かいカールのかかった色の薄い金髪が肩まで溢れ落ちる。
年の頃は、二十代半ばくらいだろうか。
その容貌は……あまりにも似た人物が近くにいたので、深花は何回も見比べてしまった。
身長、双眸の垂れ具合、左目尻に黒子、薄い唇……何から何まで、そっくりだ。
彼は颯爽とした動作で馬車に近づき、ドアを開ける。
中に向かって手を差し延べると、ほっそりした腕が伸びてきて無骨なガントレットに包まれた手をとった。
馬車の中からは……女性が現れる。
年は青年と同じくらいだろう。
青年と同じく細かいカールのかかった、肩にかかる程度の長さに揃えられたターコイズブルーの髪。
簡素な旅着を押し上げる、豊かな肉体。
背丈は、フラウと変わらない。
そして同じく垂れた双眸、左目尻に黒子、薄い唇……。
女性らしいまろみを帯びた顔つきだろうと、そっくりなのは誰も否定できない。
「紹介するよ、深花」
いつの間にか近づいてきた当人が、また深花の肩を叩く。
「我が親愛なる従兄殿、ホーヴェリア・ゼパム王国第一王位継承権保持者、ユートバルト・レギン・ホーヴェルト王子だ」
鎧の肩に手を置きながら、ティトーがそう言った。
次いで、女性の事を抱き寄せる。
「そしてこちらは我が敬愛する姉上、ファスティーヌ・ラウエラ・ファルマン伯爵令嬢」
「伯爵っ!?」
大公爵の次に飛び出した貴族の称号に、深花は素っ頓狂な声を上げていた。
「ティトーさんも、じゅーぶんとんでもない人だったんですねー……」
深花の素直な感想に、ティトーが笑う。
伯爵令息にして王子の従弟とは、またずいぶんと立派な肩書きを隠し持っていたものだ。
フラウから聞かされたいいとこのボンボンなどという表現のさらに上をいく事態に、深花は呆れてしまう。
「従兄弟、といっても『母方の』と付くから実権なんてさほどじゃないけどな。うちがしがない准男爵から伯爵に格上げされたのも、親父の能力より伯母貴の引きの強さのおかげだし」
「身内の事をひけらかさないでちょうだい」
女性……ファスティーヌはそう言うと、ティトーの脇腹にエルボーを入れた。
効いた風でもなく笑って受け流すと、ティトーはその場をガルヴァイラに譲る。
「殿下」
「中将」
お互いに堅苦しく一礼し、偉い人同士の対面はあっさり終わった。
「しかし、迎えに来るのにずいぶん時間がかかったじゃないか」
「北部森林地帯に神機の集団が現れてね。掃討に手間取ってしまったのさ」
従兄弟同士で洒落にならない話を始めた傍らで、フラウとファスティーヌがお喋りを始める。
「お久しぶりね、フラウ」
「ええ」
簡単に情報交換を済ませてから、ユートバルトは深花の方に向き直る。
「お初にお目にかかる。従弟殿から紹介にあずかった通り、ユートバルト・レギン・ホーヴェルトと申す。土の最高位ミルカの帰還、たいへん喜ばしい事と受け止める」
「お、やっぱりお前も歓迎派か」
ティトーが茶化すと、ユートバルトは笑ってかわした。
「無論だ。連絡を受けた時に喜んだのは何だったと思う?では中将、小隊を借り受けるぞ」
「お早めに返していただけると助かりますな」
ガルヴァイラがやんわり言う。
「レセプションが済んだら、すぐに返そう。約束する」
そう請け負うと、ユートバルトは首を左右に揺らした。
「鎧は鉄臭くてかなわない。早く脱ぎたいよ」