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異界幻想
【ファンタジー 官能小説】

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異界幻想ゼヴ・アファレヒト-12

 数日後。
 監視塔から高らかなファンファーレが鳴り響いた時、深花は驚いて筆を止めていた。
 筆記と口頭による語学習得は少々骨の折れる同時学習ではあったが、受験勉強とは違って覚えないと命に関わる事柄だから習得速度は教師も目を見張るものがあった。
 教師、とは言っても教えるのはやはりジュリアスとティトーの両名。
 そこにフラウも筆記習得の生徒として加わり、結局いつものメンバーでお勉強会中だったのである。
『何っ?』
「ぺんだんとニサワレ」
 ジュリアスの警告に、深花は慌てて手元に置いていたペンダントを握り締める。
「何の警報?」
「警報じゃない。監視兵が王族の到着を認めた合図さ」
 ティトーが椅子から立ち上がった。
「王族……ですか?」
「そう。レセプションのため、俺達を迎えに来たんだよ」
「じゃ、中庭に行くか」
 同じく椅子から立ち上がりつつ、ジュリアスが言う。
「俺達が出迎えないと失礼だからな」
 四人はぞろぞろと、中庭に向かった。
 途中ですれ違う人間も当然ファンファーレを耳にしたらしく、慌ただしく走り回っている。
「歓迎式典とか仰々しい所は省かれるから、粗相は心配しなくていい。ま、ほんのちょっと礼儀作法に気をつけとけばうるさく言われる事はないだろ」
 中庭に出る直前、ティトーがそう言った。
「はぁ……」
 貴族・王族と呼ばれる人間はテレビ越しにしか見た事がなかったのに、初めて見る異世界の王族……なかなかできる経験ではない。
 ちらりと、男二人に視線を走らせる。
 初めて会った貴族とそれに類する人間は、飾り気なく親切で馴染みやすかったが。
 四人が中庭に出るとそこには既に儀仗兵とザッフェレル、それと見知らぬ壮年の男性が勢揃いしていた。
「お主ら、遅いぞ」
 雷鳴の轟くような声で、ザッフェレルが咎める。
「移動に時間がかかってね。まだ時間に余裕はあるんだろ?」
 弁解してからティトーが視線を向けた先には巨大な門があり、開放されていて基地外の様子が見えた。
 草原の緑を縫うように茶色い土が剥き出しの道が伸び、遠くまで続いている。
 その道の遥か向こうで、人が豆粒くらいの大きさをした縦隊が行進していた。
「まだまだかかるな。荷造り始めといた方が無難かね?」
「主の好きにするがよい」
 呆れたようにも聞こえる声でザッフェレルは言い、深花と視線を合わせた。
「深花、こちらへ」
 男性の脇を示され、深花は驚いて三人を見上げる。
「いいから行ってきな。顔合わせしといて損はない」
 ティトーに肩を押され、深花は男性に近づいた。
「主はまだ任官されておらぬから、会う必要はなかった。しかし近いうちに会う事は確実ゆえ、今ここで略式ではあるが対面しておくがよい。カゼルリャ基地総司令官、ガルヴァイラ中将殿である」
 男性は、微かに笑った。
「異界よりようこそ、お嬢さん」
 年は五十代後半から六十代前半。
 綺麗に撫で付けた髪は銀髪なのか白髪なのか定かではないが、とても柔和な印象を受ける。
 そんな印象通りの人物でないのは、総司令官という立場まで上り詰めている事から明らかだが。
「基地での生活に不便はないかね?何かあったら遠慮なくティトーやザッフェレルに言ってくれれば、なるべく希望に添えるよう配慮しよう」
 思いもかけない優しい言葉に、深花は慌てて一礼した。
「お気遣いありがとうございます。過分なお言葉を賜り、恐縮です」
 ガルヴァイラの笑みが、強くなる。
 それから縦隊が到着するまでの間を、ガルヴァイラと色々話しつつ待つ事となった。


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