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異界幻想
【ファンタジー 官能小説】

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異界幻想ゼヴ・アファレヒト-14

 数時間後、馬車の中には深花とフラウ、ファスティーヌの姿があった。
 男達は、馬車の外で警護を兼ねて馬に乗っている。
 馬車は土台と居住部の間にスプリングが仕込んであり、衝撃を吸収してくれるので旅路は快適だった。
 そうでなければいくら多量のクッションが用意されていても舗装されている訳でもない道をさほど行かないうちに尻が痛くて堪らなくなり、悲鳴を上げていたに違いない。
「なるほどねぇ……」
 感心した風に呟くファスティーヌを見て、深花は不安に捕われる。
 道中の暇つぶしにと求められるままに自分の事を語ってしまったが、少し失敗したのではないかと思った。
 特に祖母の事は、反感を買いやすい話題でもある。
「……イリャスクルネは、幸せだったのね」
 ぽつりと漏らしたファスティーヌの呟きは、深花にとって意外なものだった。
「どうしてこの世界から逃げ出したのか、理由は分からないわ。けど、言葉の通じないラタ・パルセウムにおいて配偶者を得て、ごく普通に暮らして亡くなった……人の一生としてそこだけ切り取ってみれば、十分に幸せな人生だったと言えるんじゃないかしら」
 だったらいいな、と深花は思う。
 知らなかったこの世界において大罪人とされていても、その罪咎を自分が背負わされていても、やはり祖母が好きなのだ。
 涙を堪えようと、深花はうつむく。
 その時、誰かが窓を叩いた。
 フラウが閉めていたカーテンと窓を開け、外の人物と二言三言話す。
「深花。外を見れる?」
 フラウの言葉に深花は顔を上げ、窓の方へ身を乗り出す。
 外ではティトーが馬身を寄せて来ていて、深花に気づくと怪訝な表情を浮かべた。
「うちの姉に泣かされたか?」
「へっ!?」
 後ろからファスティーヌの『馬鹿言わないでよ!』という抗議が聞こえる前に、深花は首を横に振る。
「ならいいんだが。ほら、王都が見えてきたぞ」
 そう言ってティトーは、窓の外へ身を乗り出すよう誘ってきた。
 歩兵が主要構成員の縦隊だから進行速度はゆっくりしており、ヘマをする心配はないので深花は窓から上半身を少し大胆に出してみる事にする。
「ふわ……!」
 その時、それは見えた。
 白い壁に青い屋根の家々が立ち並ぶ、壮麗な街並み。
 その中心にそびえる水濠に囲まれた白亜の城こそが一行の目的地、国王レシュ・ホーヴ十五世の居城である。
 城下街から、基地内で聞いたものと同じファンファーレが聞こえてきた。
「いよいよか……」
 心底嫌そうな声でジュリアスが呟いたのが、深花の耳に届く。
「あ……そうか」
 大公爵でも自宅で執務とはいかないだろうから、絶縁しているというジュリアスの父も登城している可能性は大だ。
「ねぇ、ジュリアス」
 深花が呼ばわると、ジュリアスは胡乱な目つきでこちらを見る。
「んだよ?」
「う……あの、レセプション、欠席とかは使えないの?」
 ティトーに代わって馬身を寄せてきたジュリアスへ、深花はそう提案する。
「……できたらそうしたい所だな」
「そうさせるのは少々無理があるがね」
 二人の会話を聞き付けたユートバルトが、口を挟んできた。
「たとえ絶縁していようと、彼の顔は社交界に知れ渡っている。レセプションに参加する人間は、君を見るだけでなく彼も見にやって来るのだよ」
「分かってらぁ」
 ジュリアスはそうぼやくと、馬車から離れていった。


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