〈利益の卵〉-38
『本当は、中学校卒業してから“こうゆう事”にしたかったんだけどね……義務教育が終わってからさ……学校に言い訳するの大変じゃない?』
母親は、チラリと男の顔を見て、少し威圧的な視線を送っていた。
『いやあ……女子高生ってもうダブついてて、値段が安いんですよ。美優ちゃんくらいの年齢が、一番高いんですよ』
頭を掻きながら、少し顔を崩して男は笑った。
その言葉を聞いて、母親はまた封筒の中を覗き、溜め息をついた。
『……あの時もさ、なんで無理矢理水着を脱がしたのよ?あの娘が騒いだら大変な事になるでしょ?』
このビルディングは、美優が最初に所属していた事務所の物だった。
少女を食い物にしている悪徳な事務所から美優は逃れたと思っていたのだが、実際は何も変わってはいなかったのだ。
どこまでも騙され、どこまでも利用されたのだ。
この母親から逃れられない限り、美優の未来は開けなかったという事か。
『本当にすみませんでした。貴女から何してもイイって言われたので、つい……』
結局、あの事件がきっかけで、美優の凌辱ショーへの出演が早まった事になる。母親は、今度こそ美優が仕事を拒否するようになるのは分かっていたし、だからこそ無理矢理にここまで連れて来たのだ。
利用され、騙されてるのは母親も同じか……。
『でも、なんで美優ちゃんと写真撮ったんです?嫌いなんでしょ?』
男は母親が美優を嫌っているのを何度も聞かされていた。
あの時の写真の意味を、母親に聞いていた。
『私ね、飼ってて飽きた犬とか猫を処分する前にも、記念の為に写真撮るのよ。あの娘だってもう普通には戻れないでしょ?私には犬もあの娘も同じよ』
人の親とも思えぬ台詞を事もなげに話す母親に、男は冷たい愛想笑いで応えた。まあ、こうゆう親だからこそ、美優を手に入れられたわけだ。
『……あの娘はいつ帰ってくるの?』
立ち去り際、母親はけだるそうに口を開けた。
心配などしていないからこその態度だろう。
『美優ちゃんは、まだまだ“使えます”よ。しばらくの間はギャランティを払いますから。高額な、ね……』
母親はまたニヤリと笑い、事務室を後にした。
邪魔者を預けるだけで、高額なギャラが懐に転がり込むのだ。
自然と顔が緩むのも仕方あるまい。
『フフ……思ったより金になったわ……今夜、高級レストランに予約入れて正解だったわね。久しぶりの“親子水入らず”だわ…』
夕暮れの町並みを、母親だけを乗せた車が駆けていく……その様は、まさに風を切るが如く颯爽としたものだった………。