-咲けよ草花、春爛漫--7
『本当に女の子なんだな』
『ちょっと……止めてください』
文藝研の部室。突然女の身体になってしまった俺を取り巻くみんな。
藤村副部長が俺の胸を揉みながら、感心したように言った。
『一体、何が原因なんだ』
眼鏡の先輩――田平子朗(タヒラシロウ)先輩が、部室の壁に背を預けながら問うた。
『昨日の酒に、何か混ぜたりしたんですか』
『お前の一気飲みした焼酎は、俺も飲んだ』
俺の不機嫌も明らかな問いにそう答える田平先輩。
『神様が怒ったんじゃないかなー? 酒を飲んだ君の行動にさ』
首を傾げながら、緊張感のない声で言ったのは御形先輩だ。腕を組み、神経質そうに眼鏡の位置を直しながら田平先輩は呆れたように言った。
『そんな、非現実的な』
『でも、あそこ神社だったし。あんなことされたら神様だって怒るだろうしさー』
御形先輩の言葉に、皆は一斉に頷いたのだった。
『俺の……行動?』
――うひゃひゃひゃひゃ!!
――きゃあああっ!!
焼酎瓶を一気飲みで空にしたかと思えば、いきなり顔面蒼白でぶっ倒れ。そして、起き上がるや否や素っ裸になり奇声を上げて境内を駆け回ったのだという。
阿鼻叫喚。迷惑も迷惑。
『マ、マジすか……』
俺はそれを聞いた瞬間、穴にでも入りたくなった。
ていうか、素っ裸で走り回ったってことは……俺の×××もみんなに見られたってわけで……。
うわああああ! もう、死にたい! 死なせて!
頭を抱える俺の肩を、部長が優しく叩く。
『大丈夫。いくらあなたが汚いものを見せてきたからって、無理矢理お酒を飲ませたのは私達なんだから』
さり気なく酷いことを言う部長に、思わず藤村副部長も苦笑する。
鈴代は鈴代で肩を竦めて言った。
『でも神社で大暴れしたのは事実だぞ』
『もしかしたら毎日お参りしていれば、神様もいつか許してくれるかもよー』
んな、アホな……。というか、境内で酒盛りしたのはあんた達のせいでもあるだろ!
思えども、そんなことを先輩には言えず――というより、藤村副部長が怖くて――俺は大きく溜息をついた。
小日向が心配そうに俺を見やり、優しく声をかける。
『きっと戻れるよ、心配しないで』
ううう、やっぱり優しいぜ小日向。今からでも遅くないのなら、彼女にしたい。
そして彼女は笑みを浮かべたまま、こう言ったのだった。
『ね、男の子に戻るまで、“ミハルちゃん”って呼んでいい?』
4. 未知なる領域(セイカン)へようこそ
「あれからもう半年か」
窓から覗く桜を見やりながら、俺はぽつりと呟く。
「結局、男に戻れなかった……」
「いいよ、戻らなくて」
俺の言葉に、傍らの鈴代は満面の笑みで言った。
こいつは、本当に助平だ。
俺が女になった時、これからの生活について色々とアドバイスしてくれたのは小日向と鈴代だった。
風呂だとか着替えのことは小日向に相談できたが、性生活についてはさすがに彼女には聞けない。
女になってもやっぱり性的欲求不満は溜まるもので、俺はそれをついうっかり鈴代に零してしまった。奴は女のひとりエッチにも詳しいらしく――分かっちゃいたが、こいつは本当に変態だ――、今までの経験からナニをどうすれば女は気持ちよくなれるのかということをこと細かに説明してくれたのだったが。