-咲けよ草花、春爛漫--6
それからは、怒涛の日々だった。
まずこのことを相談したのは、文藝研のみんなと、俺のクラスの担任である尾花であった。
『本当に親御さんには相談しなくていいのかい?』
『だから、何度も言ってるじゃないすか。こんなのがバレたら、俺は殺される』
冗談ではないのだ。
俺の親父はとにかく俺を男らしく育てようとそればかりだった。俺はどちらかというと母親に似たようで、小さい頃から本や絵が好きだった。そんな俺に、親父は空手も柔道も剣道も習わせようとしたし、それが続かないとみると今度は野球を勧めてきたくらいだ。
背を伸ばし筋肉をつけろと特訓させられてきた小、中学生時代。それなのに、残念ながら背は伸びないし筋力はついたものの体格は親父が思うようにはならなかった。
俺には兄が二人いて、特に上の兄がとにかく男らしくて親父の自慢だったから、俺にも彼のようになってほしかったのだと思う。
だから、女になっちまった俺の姿を見たら、きっと親父は――
『俺に切腹しろって言ってくる……』
顔を青くさせて俯く俺に、尾花は苦笑した。
『君がそこまで言うのなら無理強いする気はないが』
言って、尾花は入寮届に判を押してくれた。
入寮届。これを届ければ、俺は明日から七ノ森の寮暮らしだ。
実家から遠いものの、通学できない距離ではない。だから通学生として入学したが、この身体が戻るまでは家には帰れない。
戻るのかどうかも分からないけれど、でも、いきなりこうなっちまったんだ。またいきなり男に戻れるかもしれない。それまでは家を離れて寮暮らしをするつもりだった。
必要なものは家にあるんじゃないのかい? そんな尾花の問いに俺は頷いた。そう、教科書類は家に置いてあるため、最低限それは取りに戻らなければならない。
『大丈夫です。親父の留守を狙うし、それに教科書を取りに帰るだけなら、この制服着てりゃバレないと思うから』
そうなんだ。何が哀しいって、顔自体にそんな変化ないってこと。
それなのに、どういうわけか、完全に女に見えるんだ……。
「――でも、女になったことを伏せるにしても、親御さんはよく寮生活を許してくれたな」
鈴代のおごりの缶ジュースを開けながら俺は答える。
「肉体・精神を鍛えるために応援部に入りたいんだけど、入団には寮生であることが条件って言ったんだ。そうしたら、快諾してくれたよ」
驚いたふうに鈴代が眉を上げた。
「お前、応援部に入るつもりだったの?」
「んなわけないだろ。俺は『入りたい』って言っただけだ。『入る』なんて言ってないぜ」
七ノ森応援部に入るには寮生であることが条件ということも嘘ではない。俺は根拠のない嘘はつかない性質だ。
俺の言葉に、鈴代はにやりと笑う。
「へえ、なかなか悪知恵が働くじゃないか」
「うるせー。俺はマジで親父にこのことを知られたくないんだよ」
喉を刺激する炭酸を一気に飲み干し、口許を拭って、俺は息をついた。
「男に戻るまでは、何とかバレないようにしないと」
俺がいうと、鈴代は少し驚いたように眉を持ち上げてみせた。
「戻るって――そもそも、戻るのか。これ」
「だから、毎日“お参り”に行ってるんじゃねーか」