百獣の女王 U-3
・・・・・・俺、もしかして聞き逃した?
彼女は既に自分の名前を口にしていて、緊張のあまりつい右から左に聞き流してしまったのだろうかと思った。
「私の名前は、」
だから俺は彼女が話を続けてくれたことにホッとしたのだが、
「どんな名前だと思いますか?」
「え?」
続く言葉に思わず呆然となってしまった。
私の名前は、どんな名前だと思いますか?
一語一句聞き逃しのないように注意していた俺は、彼女の言葉をハッキリと覚えていた。
どんな名前だと思いますか?
どんな名前、と言うことはつまり・・・・・・、
俺に自分の名前を予想して欲しい、ということだろうか?
いや、そんな・・・俺の聞き間違いじゃないのか?
俺は迷ったが、彼女に確認を取ってみることにした。
「・・・・・・あなたの名前を、当てて欲しいってこと?」
「はい」
彼女は「いいえ」、ではなく確かに「はい」と答えた。
声を出すのにかなり勇気が要ったが、これで俺の勘違いではないことが分かった。
いや、だとしてもこれはこれでかなり厄介なのではないか?
名前なんてそうそう予想できるものではないし、ヒントなんてあるはずもない。
そう、思っていたのだが。
俺は彼女の瞳から目を逸らした。
そして、彼女の身体を上から下へとなぞるように見た。
とても失礼なことをしている。
それは分かっていた、だけど。
一度始めてしまうと止まらない。
彼女の身体の中でまず目に付くのは胸の膨らみ。元々大きいと思っていたが、横から眺めると黒い服の布地を更に盛り上げているように見えた。彼女が着ているのは紐で肩から吊るすタイプのワンピース、いやドレスと言った方がいいんだろうか? とにかく真っ白な肌が首筋から肩を通して指先まで殆ど露出していた。スカート部分もそうだ。足首まで届くほど長いというのに腰のあたりまで大胆にスリットが入っていて、脚の片方が艶めかしくあらわになっている。
俺はこれまで彼女のことを幻想の世界の住人のように見ていた。あまりにも人間離れした美しさと、巨大なライオンを従えている異様な光景、そして何より俺のことを真っ直ぐに見つめる金色の瞳が俺をそう思い込ませていたのかも知れない。