百獣の女王 T-4
「はは、すみません」
良子姉さんのストレスを何となく察した俺は取りあえず謝っておいた。
「そういえば」
正美さんが何か思い出したようにつぶやいた。
「綾菜ちゃんはどうしたんです?」
「ああ、あそこ」
俺は会場のとある場所を指差した。
そこには今日初めて知り合ったと思しきハンサムな男性と会話を楽しんでいる綾菜の姿があった。
「相変わらずね。草太さん、いいの?」
「まあ、俺と綾菜は付き合ってる訳じゃないですから」
「でもまだ好きなんでしょ?」
良子姉さんが痛いところを突いてくる。
「全く情けない」
「好きなんだから仕方ありません」
呆れる良子姉さんにハッキリと言ってやったが、俺はふと違和感を覚えた。
「それならちゃんと勇気を出さないと。誰かに盗られちゃうわよ?」
義弟の恋路を心配するような正美さんの言葉。
俺は内心で苦笑するしかなかった。
綾菜を好きになってから今に至るまで、俺は何度もなけなしの勇気を振り絞って来たからだ。
勇気なんてもうひと欠片も残っていない。
「草太」
「ん?」
「いい加減、見切りをつけなさい」
事情を知っている良子姉さんが真剣な声色で俺に言った。
普段は俺をアゴで使う良子姉さんが偶に見せる優しさに対して、
「・・・・・・」
俺は何も言うことができなかった。