百獣の女王 T-15
「どうして?」
答えが返ってくる筈もないのに、つい俺は聞いてしまった。
黒猫はいつものように俺を見つめるだけだ、そう思っていた。
だが黒猫は俺の思い込みに反抗するように立ち上がった。
そして小さな口を目いっぱい開いたかと思うと、
グルオオオオッ!!
っと雷のような鳴き声を上げたのである。
俺は自分の耳を疑った。
黒猫が・・・そう、まるでライオンのように吼えたのである。
ありえない。
俺は黒猫を凝視した。
どこからどう見ても、猫なのである。黒い色をしただけのただの・・・ね、こ?
俺は耳ばかりか目も疑うこととなった。
黒猫が、大きく見えるのだ。大型犬のような大きさに見えるのである。
いや、違う・・・大きくなってるんだ。俺がこうして見ている間も、黒猫はみるみる大きくなっている。
どうなって、るんだ?
俺は黒猫が巨大化する姿を黙って見ているしかなかった。
グルオオオオオオンッ!!
黒猫の変身はもしかしたら一瞬の出来事だったのかも知れない。
いつの間にか立派な鬣(たてがみ)を持った黒いライオンがそこに居て、ようやく本来の姿を取り戻したと言わんばかりの咆哮を上げているのである。
嘘だろ・・・?
俺はベンチに座っていなければ間違いなく腰を抜かしていたことだろう。
ライオンだ。明らかに巨大なライオンが俺のすぐ近くに居るのである。
ライオンが、俺を見ていた。
怖い・・・怖い?
俺は・・・それまで抱いていた恐怖が不思議と和らいでいくのを感じていた。
これまで何度も俺を見上げていた黒猫の金色の瞳と、ライオンの金色の瞳が重なって見えたからだ。
「おいで」
金色の女性がライオンに向かって手を伸ばした。ライオンが彼女に近づいていく。
危ない、とは全く思わなかった。