悪夢の日々-10
「…何、したの。
さっきのは…なに?」
「……かんちょう」
さすがに、うしろめたそうな声。
恐怖のあまり、すぐにそれを漢字に変換することはできなかった。
「ひっ…ひどい…!
こんなコトさせて…何がしたいの…!
はやくっ…泡を流して!
トイレ行くからっ…!」
抑えられない震える声で抗議した。
でも、返って来た絶望的な言葉に、すぅっと血が引いていく。
「ダメ、まだシャンプー中デス。
出したかったらソコにしな、う・ん・ち」
「…ひっ…!」
ぼろぼろと、涙が溢れた。
痛くて力が入らず、シャワーを奪うこともできない。
しゃくりあげながら、なんとか懇願したけど、ダメだった。
一瞬だけ、罪悪感のようなものがお兄ちゃんの顔を横切ったけど、それは一回きりで。
あまりに辛い仕打ちに、どんどん余裕が無くなっていく。
…そして、決壊。
「…あああぁぁっ!!」
その瞬間、ぐっと頭を押さえ付けられて、髪にシャワーをぶっ掛けられた。
とっさに、お湯の奔流に目をつぶる。
聴覚はざぁざぁ!と水音に襲われ、嗅覚はシャンプーの香りにくすぐられている。
下半身は痛みに悶えていても、脳の感覚のほとんどはシャンプーのすすぎに集中している。
だから、シャワーが体に移動した時、あたしの秘められるべき生理現象が、いつの間にか終わっていたのに気付いた。
プールから水面に顔を出したような気分で、腹痛の名残に耐える。
あたしは、へとへとだった。
湯船から引っ張り出されて体を流され、リンスは無しで、風呂場を出る。
優しく体を拭いてもらい、そのまま、お兄ちゃんの部屋に拉致られた。
お兄ちゃんはぐったりしたあたしの体を、少しずつほぐしながら快感を引き出しはじめた。
そして、初めて体験する…ア○ルセックス。
イヤだって言ったのに、結局はイってしまった自分に絶望する。
もはや憎むべきはお兄ちゃんではなく、淫らな自分のカラダ。
…疲れて眠り込んでしまったあたしは、あのお風呂場の惨状がどうなったのかは知らない。
後日、庭の隅に見慣れないバケツとシャベルとチリトリがあったのも、見なかったことにする。
全てをお兄ちゃんに見られてしまったなんて、恐ろしくて、考えたくもなかった…。