異界幻想ゼヴ・セトロノシュ-13
「こちらの世界については、こんな所かな」
だいたいしゃべり終えたとばかりに、ティトーは肩をすくめた。
「聞きたい事なんかがあれば、受け付けるが……」
「……神機について、もう少し詳しくお教え願えますか?」
ティトーの顔に浮かんだ疑念を見て、深花は微笑む。
「ご心配なく。元の世界に戻りたいとは、当分思いませんから」
別に、逃避願望がある訳ではない。
気絶してしまったりして時間の感覚があやふやだが……ジュリアスによる学校破壊から、それなりの時間が経過しているのは間違いない。
その間に警察も救急車もやって来ているだろうし、電話などによる生徒の安否確認も行われているはずだ。
そんな中で唯一、行方不明になっているであろう自分。
時間帯は夕暮れ時ではあるが部活のために校庭に残っている生徒が多数おり、校外の人間がやや入りにくい状況。
……要は、自分が学校爆破の第一容疑者なのである。
嫌疑を晴らすには『行方が分からなかった間、どこにいたのか』を証明せねばならないのだ。
取り調べには当然警官だか刑事だかが立ち会うだろうし、素人が現場不在の証明に嘘をついてもプロにはすぐ見破られるだろう。
かといって、地球をラタ・パルセウムと呼びならわす世界からやって来た神機と呼ばれる巨大ロボット風の半生物が学校を爆破したような派手な戦闘を繰り広げ、揚句に自分をさらっていったのでアリバイがありません……なんて正直に答えたら、多分即座に檻付きの病室に閉じ込められる。
「ただ、少しひっかかる事があるんです」
ティトーの目を見据え、深花は言った。
何か思う所があるのか、ティトーは黙って深花の目を見返す。
ここからはおそらく、腹の探り合いだ。
そんな互いに譲らない睨み合いを見て、ジュリアスは目を白黒させている。
「……分かった」
先に折れたのは、ティトーだった。
「神機の事を……俺達が知りうる限りの事実を話そう。他には?」
「今の所はそれだけお願いします」
神機。
生体部分の筋肉を鉱物部分の鎧で覆った、半生体装甲。
外から音声や動作による指示を飛ばしてもいいし、よりスムースに扱うため乗り込んで直接操ってもいい。
搭乗者は神機自らが選び、互いの繋がりの証としてそれぞれを象徴する色と形のペンダントをパイロットに貸与する。
ティトーなら、『風』の色をしたグリーン。
ジュリアスは、『炎』の紅とオレンジ。
フラウは、『水』の蒼。
そして……自分、深花が祖母から受け継いだ『土』の黄色。
パイロット同士はペンダントを通じて神機と、ひいては仲間と精神的に繋がる事ができ、離れていてもスムースな意志疎通が可能になる。
それを利用してジュリアスは自分と深花とを強制的にリンクさせ、とりあえず会話ができるようにしたのだ。
そしてそこから土の神機は深花の体に対する侵入権を取得し、メンテナンスを始めているはずだ。
そのメンテナンスだが、具体的には二つある。
一つめは、心身の賦活。
体は自身の鍛えようによるが、精神的には特別な訓練をこなさずとも相当タフになる。
慣れれば神経系を操るのもたやすいから、拷問・尋問にはかなりの期間耐えられる。
二つめは、治癒速度の上昇。
ちょっとした切り傷などは即座に、単純骨折ならその日のうちに治る。
風邪などの病気も受け付けなくなるし、戦いの邪魔になるので生殖関係の機能も一部が制限される。
要するに首を折られるなどの即死でない限り、パイロットを返上するか寿命を迎えるまで生死とは無縁になるのだ。
「まあ自分以外の誰かと寝る事になっても、俺達は神機乗りである限りいくらいたしても性病を移される心配もなけりゃ妊娠もできないって訳だ。だからこそ、こいつはためらいなく君を抱いたんだが……」
深花の表情が硬くなったのを見て、ティトーはため息をつく。
「じゃ、次の説明だな」
何か言いかけたジュリアスを片手で制し、ティトーは真面目な表情を作った。
「何故、神機はリオ・ゼネルヴァに存在するのか」