幼年編 その三 レヌール城のお化け退治-3
「おい、まじかよ……本当に使えるの?」
「いや、そんな危ないことは……」
リョカとしてもあまり目立つことをするのは好きではなく、また大勢の居る中で真空魔法などを放てば、たとえ微弱であろうと良い結果を招かないことを知っている。だから隠そうとしていた。
「リョカはねえ。お化けキャンドルに囲まれたとき、あたしを守るためにバギを使ってみせたのよ! まあ、一匹は逃がしちゃったけど、でも本気になったら怖いんだから!」
まるで自分のことのように胸を張るビアンカだが、リョカはどんどん小さくなっていく。
「へえ……真空魔法ねえ……。お化けキャンドルねぇ……」
いじめっ子の片割れは面白そうに二人を見る。現実問題それを見ていない者からすればにわかに信じがたいことであり、それは周りも同じこと。
ひそひそ声が高まり、やがて「うそつき」と囁かれる。
「な! 本当だってば!」
「ビアンカちゃん、うそつきだ! うーそーつーき!」
そして始まるうそつきコール。ビアンカはすぐに顔を真っ赤にさせ、「本当だもん」と声を裏返す。その瞳には涙が浮かんでおり、それをみたリョカは心が痛んだ。
「よーし、そんじゃあさ、嘘じゃないんならお前らちょっと頼まれてくれよ。この村の北にレヌール城ってあるだろ? あのお化け城だ。あそこに最近お化けキャンドルが住み着いてるみたいなんだ。それを根こそぎ退治してきたら信じてやるよ」
「本当……?」
「ああ。そうさ。たとえ真空魔法が使えなくても、あんだけの数を倒せたらそれ以上だしな! どうだ? やれっか?」
「ねえリョカ……」
「僕は……」
思い出されるのはこの前のシドレー追走劇。自身を過信し、デボラを危険な目に遭わせたという事実。彼は首を縦に振ることに躊躇する。
「リョカ! お願いよ!」
「そうだな。もし退治したらこの猫を苛めるのやめてやるよ!」
「ねえリョカ!」
「だって……」
だがリョカは……。
「もういい! あたしがやる! あたしが一人で行ってお化けを退治してくるわ! そんなの簡単よ!」
「ビアンカちゃん……」
「うるさい! 意気地なしは宿で布団被って寝てなさい!」
ずんずんと遠ざかるビアンカにリョカが慌てて追いかける。しかし、心無い子の足にかかり、転んでしまう。その拍子に例の赤いヘアバンドがこぼれる。
「あっ……」
「リョカ!?」
物音に振り返るビアンカは駆け寄るべきか逡巡する。
「なんだ? これ……。うわ、古くっさ……だっせ〜!」
一人がソレを拾い、しげしげと見つめたあと、それをブーメランのように放り投げる。
「返してよ、それ、ビアンカちゃんにプレゼントするつもりなんだから!」
リョカはそれを追うが、無常にも空を舞い別の子に……。
「そんな古臭いの似合うのうそつきビアンカぐらいだな!」
その言葉にビアンカは顔を真っ赤にさせ、道を塞ぐ子を突き飛ばしながら走っていく。
突き飛ばされた子は膝をすりむいたらしく泣き出してしまう。