幼年編 その三 レヌール城のお化け退治-11
「だああああ!!!!」
人間の骸骨にしては大きすぎる存在だが、その分、密度が薄いらしく、リョカの一撃で粉々に砕ける。
「ぐわぁぁ!!」
「やばいぞ! 料理長がやられた! 逃げるぞ!」
どうやらあまり統制の取れた魔物ではないらしく、それほど劣勢というほどでもないのに、一体が派手に砕かれたことで散り散りになる。
そして聞こえる雷鳴の音。どうやら王様が雷で出てくる魔物を滅ぼしているらしい。
「ふう……なんとか出られた……」
「みたいね……」
ほっとしたのかその場にしりもちを着く二人。
「でもすごいねビアンカちゃん。どうしてあの……ああいうことしたら出られるって思ったの?」
「え? ああ、それはまぁ……いいじゃないの!」
もちろんそんな算段があったはずもなく、ビアンカは胸元、またぐらを隠しながら向こうを向く。いくら暗いとはいえ、黒が薄れた今、目を凝らせば体のラインが見える程度になっている。
リョカは慌てて周囲を探る。なんとか古びたドレスや礼服を見つけると、ビアンカに投げる。
「なんか、ほこりっぽい……」
「そうだね……でも、裸でいるよりはいいよ……」
「まね……」
リョカからすると、もう少し彼女の裸を見ていたい気持ちもあったのだが、それを言えばどうなるかわかっているので口を紡ぐ。
「さて、あの親分ゴーストをどう料理してやろうかな……!」
自分どころかビアンカまでこんな目に遭わせたことに強い憤りを感じるリョカは、手近にあった大柄な包丁を抱えると、螺旋階段を駆け上る。
「待ってよ、リョカ!」
ビアンカも駆け出そうとしたが、ふと違和感を感じ、スカートを捲る。
何かが股間を伝うのを感じたあと、彼女は火炎魔法で明かりを取り、それが消えると同時にペタンと座り込んだ。
**――**
再び親分ゴーストのいるであろう部屋へやってきたリョカ。彼は手近な窓から全て開け、月明かりを部屋に入れる。
「さあもう逃げられないぞ! 僕らを食べようとした魔物は既に王様に討たれた! 覚悟しろ!」
威勢よく乗り込んだリョカを突然の業火が襲う。おそらく親分ゴーストの中級火炎魔法、メラミだろう。
「くっ!」
シドレーがいるのならまだしも、今は一人。咄嗟にマントで庇うがそれが果たしてどれだけの防御力を誇るのか?
「ああもう! ヒャド!」
突然女の子の声と氷結魔法が飛んできた。それは空中で中級火炎魔法と相殺するどころか、放たれたほうへと氷の矢が向かう。おそらく詠唱主の実力は親分ゴースト以上なのだろう。
再び氷の矢に救われたリョカは辺りを見る。
「アン? それともアニスさん?」
だが先ほどの声はどちらでもない、知らない女の子の声だった。
「おーい、坊主!」
すると階下からシドレーが飛んでくる。
「あ、シドレー無事だったんだね」
「ああ、金髪娘に出してもらったわ。まあなんだ、俺もまだまだ甘いな……」
てれたように笑うシドレーは、リョカの肩に乗ると、大きく炎を吐く。しばらく灯された炎で部屋の隅々まで見たが、やはりいない。
「逃げよったか。まあそうだろうな……だけど……」
ドガッシャーン!
テラスのほうで音がしたのが聞こえた。おそらく雷が落ちたのだろう。
そして落ちた相手はきっと……。
「ま、爺さんが積年の恨みを晴らしたってことで、一件落着だな……」
シドレーはそう言うとリョカの道具袋の中にもぐりこんだ……。