援助交際-1
「先生、しよ?」
一体何故こんな事になっちまったんだろう。
俺が今いる場所は、所謂恋人同士が使う専用の宿泊施設・・・通称ラブなホテルの一室。
本当はあいつと行っておきたかった場所に、全くの別人と一緒にいる。
それも・・・・教え子だ。
俺に跨り、ゆさゆさと体を揺らして落ち着きの無い様子を見せている。
¨こういう事¨は初めてだと言ってたが、胸元まで伸ばした白っぽい金髪のせいか、慣れている様に見えた。
外見で人を判断するなと生徒に口を酸っぱくして注意しているが、こいつにはそうしてしまうのは仕方ない。
単に髪の色だけでなく、細長い指には似合わない、趣味の悪い髑髏の指輪をはめて、黒いピアスを幾つもぶら下げた耳は重みで千切れてしまいそうな位小さかった。
こいつの学校の外での生活は良く知らないが、少なくとも大人しく家で勉強したり、欲しい物の為に頑張ってアルバイトをしている様には思えない。
「せーんせっ、聞いてる?」
トントン、と俺の唇を叩いて返事をせがむ。
馬鹿野郎・・・・変な答えでも期待しているのか、お前は生徒なんだぞ。
「下りろよ。馬鹿な真似すんな、ここに入った理由を忘れたのか?」
今この瞬間も強く窓を打ち付ける雨粒が鬱陶しい。
そいつは、雨止まないねーと窓を見ながら呑気に呟いた。
少量だが雨を吸い込んだ長袖のシャツが肌に張りついて鬱陶しい。
「聞いてんのか、東宮(ひがしみや)」
「うん、にしどもえ先生」
「・・・西邑(にしむら)だ。名前を間違えられるのは好きじゃない」
「分かるよ。別にさ、潤って名前は男のものだと決まってる訳じゃないもんね」
名前の事はさっきも聞いた。
昔から色々と言われたりしてきたから、自分の名前は気に入っていないらしい。
俺も名字で色々あったから気持ちは分かる。
「きっとさ、運命だよ。こうして先生とここに居るの」
「俺の嫌いな言葉を3つ教えてやる。運命と結婚と独身生活だ」
子供を相手に悪態をつきながらも俺はその言葉に同調していた。
俺も、東宮も、寂しさを抱えた脛に傷を持つ者同士。謂わば同類ってやつだ。
名前の事で他人から言われる事も、何となく共通した思いを感じている。
「彼女の事、忘れたいんでしょう、先生」
「・・・・・・・・・」
同調はしても、行為に及んでいいのか悪いのかは別だ。
いくら堕落した毎日を送っていたとはいえ、自分の担当するクラスの生徒と一線を越える程腑抜けてはいない。
俺はそのつもりでも果たして東宮が退いてくれるだろうか?