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God's will
【その他 官能小説】

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GOD-1

  7



 もしもあの頃に戻れるならば、僕は大声で君に向かって愛の言葉を叫ぶ。そこが大都会の真ん中であっても構わない。静かな映画館でも構わない。会議中でも構わない。僕が恥をかくとか、他の誰かに嫌われるとか、上司に怒られるとか、そんなちっぽけな事なんてどうだっていい。僕は君のことがどれだけ好きかということを伝えたいと思う。僕がどれだけ君の事を愛しているかということを伝えたいと思う。いっそのこと、愛なんて越えた何か別の言葉でそれを伝えたいと思う。そして君と二人でこの世界を生きて行きたいと思う。生きることは辛い。嫌な事だってたくさんある。そしてそれで挫けてしまう時、やっぱりそれは孤独を感じたときだ。でも、君と二人ならそんな不安はない。僕らはいつだって心と心を強く結び、どんな困難にだって立ち向かうことが出来る。僕は自分の気持ちを伝える勇気のなかった過去を恥じる。あの頃の自分を嫌う。僕は何を恐れていたんだろう。愛する人に愛していると伝える以上に。それ以上に大切なことなんて一体何がある? 自分にとって愛する誰かを守る以上に大切なことなんてこの世界に一つもないんだ。

 そんな色々を全部ひっくるめて、僕は「ルカ」と君の名前を呼ぶ。制止する世界の空間に突如現れた穴の中からやってきた君へ向けて。でも、僕のそんな感情はきっと君には届かなかっただろうと思う。それに、今更僕は君にそれを言おうとも思わない。それを言うべき時間は僕には十分にあったはずで、でも今はその時じゃない。それはもう随分前に過ぎ去ってしまった。

「まあ、ゆっくりお別れでもしろよ」と木村修は言って、ルカが出てきた穴の中に入り込む。木村修が穴の向こう側に消えると、穴はゆっくりと狭まり、やがてしまう。

「ってかなんで紫音裸なの」と言って笑ったルカに、「いろいろあってさ」と言って僕も笑う。

「ねえ、紫音。色々ごめんね」とルカは言う。

「いや、いいよ。結構大変だったけど」

「お姉ちゃんは元気?」

「あぁ、うん。元気そうだったよ」

「宮下勉君は?」

「あぁ。元気元気」

「紫音は?」

「見ての通り。まぁ、ちょっと疲れたわ。耳も痛いし。でもいいんだ。ルカに会えたから。ルカに会って、色々話さなきゃなって思ってて。そう思ってたんだけど、なんか、なんも思い浮かばねえな。はは。変なの。あのさ、その。大丈夫だった? ごめんな。俺弱くて、ルカのこと殺しちゃった」

「もともと私が頼んだんだし。ってか、こっちこそごめんね。殺してなんて頼んで、ごめんね。紫音、辛かったよね? ごめんね」

「いいって。辛かったけど、大丈夫だから。もう色々終わっちゃったんじゃん。だから、もういいって。後のことはさ、俺がちゃんと考えなきゃ。だって、俺まだ生きてるもん」

「うん。紫音は生きてるよ。もっともっと生きていくんだよ。頑張ってよ。私応援してるから」

「頑張って生きるってのも、なんか違わねえ?」

「違わないよ。頑張って生きるんだよ。みんなそうなんだよ。私は弱くて、どうしようもなくってそれでもう止めちゃったけど」

「うん。そうだね。ルカのバーカ」

「うん。バカだね」


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