GOD-4
そういえば、この赤ん坊の性別はどっちなんだろう、とふと思って僕は赤ん坊の着ていたロンパースを脱がしてみる。小さなボタンを一つ一つぽちぽちはずしていく。おむつをはずすと、茶色の糞便がおむつにしっかりとキャッチされていて、僕は溜息をつく。オムツなんて家にはないぞ、と僕は思う。赤ん坊の股には小さなおちんちんがついている。男の子か、と僕は思う。とりあえず近くにあったティッシュをとって、赤ん坊の尻を拭く。赤ん坊の便にはそれほど悪臭を感じない。まだこの赤ん坊は本当に産まれたてで、新生児用のミルクしか口にしていないからだろう。お尻をきれいにして、引き出しから一度も使っていない真新しいタオルを持ってきて、とりあえずそれをオムツの替わりにあてて、元通りにロンパースを着させる。とりあえず買い物に行かなきゃと僕は思う。オムツと、お尻拭きと、ミルクと、哺乳瓶と、それから、と考えていたとき、赤ん坊が起きてふぎゃーと泣き出す。
僕はあわてて赤ん坊を抱き抱えて、頭の中に子供をあやすお母さんの姿を思い浮かべながら、その想像通りに見よう見真似で背中をとんとんしながら左右にゆりかごみたいに体を揺さぶる。しばらく経って、ようやく赤ん坊は泣き止む。
「おじさん、おなかへったー」と赤ん坊は言う。
「なんだ、こっちに来ても君は喋るんだ」と言って僕は笑う。まぁ、仕方がない。成長の仕方が他の子供達とは随分と違うが、この子は他の子供たちとは随分と違う産まれ方と育ち方をしてしまったのだ。仕方あるまい。それに、その異質さと不完全さに僕は安心する。何故ならば僕自身異質な親という立場であり、まだまだ不完全な大人だからだ。
「おじさん、ごはんー」
「何がいい?」
「ミルク」
「そこは普通でよかったよ」僕は赤ん坊の頭を撫でる。「なあ、君。俺はおじさんじゃない。パパと呼べ」
「えー。やだー。おじさんー」
「じゃあ、お兄さんにして」
「おにさん」と言って赤ん坊はきゃきゃきゃっと笑う。
「なんだそのおじさんとお兄さんを足した変な呼び方」と言って僕は突っ込む。「っていうか、鬼みたいじゃん」
「おにさん。あはは〜」
まあ、楽しそうだから良いか、と僕は思う。
「君のごはんはここにはないから、ミルクでも買いに行こう」
「えー。はやくしてー」
「まぁ、待てよ。物事には順番があるんだ。じゅんばん。分かるか?」
「わかんない。おなかへったー」
「はいはい」
僕は立ち上がり、部屋の中にあったスウェットとTシャツを着る。そして赤ん坊を抱きかかえ、部屋を出る。