シグナル¨11¨-5
「杏子、その・・・なんだ、俺に何か用があるのか」
「う・・・うん。今日はバレンタインだからー、どうしても渡したいものがあるの」
昨日、賢司くんの為に頑張って作ったチョコ。
初めてだったから上手く出来たかどうかは分からない。
それでも、受け取ってくれたら・・・嬉しい。
「はい、これ」
「ありがとう、杏子。なんか、ちっとくすぐってぇな」
短い言葉の中に賢司くんの想いが込められてる気がした。
いつも、そう。口数は多くないけど、自分の気持ちを乗せて伝えてくる。
お前だって何でも思った事をすぐ口にするだろ、って言われたけど、賢司くんもそうだよ。
でも私と違って優しくて、さり気なく気遣ってくれる。
「へえ、可愛いなこれ。もしかして熊か?」
「そうだよ!えへへ、最初はハートにしたんだけど、苺色の熊さんも可愛いかなって思ったの」
賢司くんの好きな赤・・・とまではいかないけど、苺チョコのピンク色。
運良く熊さんの型があったからそれを使って、特製の熊さんチョコを作った。
普通のチョコで目と鼻を描いて、中に細かく砕いたアーモンドを入れている。
「なんか、食うの勿体ねえな。このまま飾っときたいぜ」
「ちゃんと食べてー。それで美味しいって聞かせて」
「じゃあ・・・」
賢司くんがピンクの熊さんを一口噛った。
直ぐに言葉が出ると思ったけど、何も言わずにもぐもぐ口を動かしている。
「どう?」
「ちょっと甘いな。でも初めてにしてはよく出来てる」
「良かった〜。失敗しちゃったかと思ってた」
そしたら、賢司くんがいきなり私を抱き寄せた。
「けっ、賢司くん?!ダメだよここじゃ、は、恥ずかしいっ」
「もっと自信持っていいと思うぞ。お前は俺の、自慢の彼女なんだからな」
な、なんか良く分かんないけど・・・嬉しい。
こんな事普段はなかなか言わないから、それが余計に嬉しかった。
言うのにかなり勇気いる言葉だろうし・・・
今日が特別な日だから、それが切っ掛けになったのかな。
賢司くん、大好き。来年もその次も一緒にいたい。
〜〜続く〜〜