シグナル¨11¨-4
〜(Yayoi's Side)〜
「ん!!」
「・・・何よ?」
出会い頭にいきなり両手を差し出してくる速人。
「愛する俺の為に作ってきたんだろ。チョコをくれ」
「条件があるわ。文句言わない、嫌な顔しない、早めにお返しする。これを守れるならいいよ」
「余裕だって!さあ弥生、早く!」
「はい」
青のリボンをつけた箱を渡すと、速人はそれに何も言わずさっさと開けてしまった。
わざわざ好きな色を選んだってのにこの馬鹿は・・・
「お、おぉ?なんだこりゃ、へんな形だな」
「チョコフレークだよ。あんた好きでしょ」
「見覚えのある形だと思ったらそうだったんか。お前・・・そこらのコンビニで買ったんじゃねーだろうな」
「いいから食べてみて。それで分かるから」
あ、嫌なカオしてる。まずひとつ約束破ったな。
「何が分かるんだよ。お前適当な奴だけど、記念日までこうやるとはな。手作りがよかったー」
ぶうぶう文句言いやがって。これでリーチだね。
・・・でもこれはしょうがないか。見た目はコンビニのと全然変わらないから。
それでも、なんだかんだ言いつつも速人は口に入れた。
「・・・・・・」
眉間に皺を寄せながらじっくり味わっている。
飲み込んでから、その深い皺がいきなり消えた。
「なんか違う、変だ。口の中の感触が」
「ナッツ砕いて入れてみたの。どう?コンビニのとは違うっしょ」
「あーあ、普通のが良かったなー。あーあー」
速人は私から顔を背けてしまった。
彼女からの手作りチョコを貰って嬉しくないのかよ、この根性曲がり。
普通に綺麗な形とか見た目だと嫌がるから、こういう変に気取らないのにしたってのに。
「速・・・」
言い返してやろうと思ったら、耳が赤くなっていた。
なるほどね。そうか。
・・・この、根性曲がり。
真っ赤な顔を見られたくないって事か。
あたし達、ずっとこんな感じでいくのかな。
それでもいっか。お互いが傍に居れば−
〜(Anzu's Side)〜
渡すなら早くしなきゃ・・・迷ったらダメだ。
「ねえ賢司くん、きょ、今日ってさ、バレンタインだよね」
「・・・お、おう。そうだな」
何だか賢司くんも緊張してるみたい。
いつものどんな事にも動じない、堂々とした様子とは違ってそわそわしていた。
賢司くんも待ってるんだ・・・
どうしよう、物凄くドキドキする。告白した時と同じ、いやもしかしたらそれ以上かもしれない。
あれよりテンパる事なんてこの先もう無いなんて思ってたのに・・・