シグナル¨10¨-2
〜(Haruka's Side)〜
「いつまで臍曲げてんのよ、遥。お姉ちゃんの時で分かってたでしょ」
「だからってまだ一年も経ってないよ。なのに、子供の部屋を・・・」
「うんうん、分かるよその気持ち。だからお年玉多めに請求しちゃえばいいんじゃない」
お姉ちゃんが一人暮らしを始めたのは私が高3になる時だった。
あんまり帰ってこなかったからお母さんが使わなくなった物を部屋に詰め込み始めて、その年の秋にはすっかり物置になっていた。
でも・・・私の部屋までそうするなんて信じられない。
今年は今までの人生で最悪のお正月になりそうだ。
そもそもどこで寝ればいいの?足の踏み場も無いのに。
「お正月くらいは帰ってきなさいって度々言ってたくせに、なんでこんな事すんの」
「どっか抜けてるからね、母さんも父さんも。度が過ぎてるけどさ・・・」
「・・・はあ・・・」
悪気が無いのは分かってる。家族だし、そういう人だっていうのも分かるから本気で怒ってる訳じゃない。
でも、憂鬱なのは確かだった。
・・・成敏くんに会いたいな。
「彼氏に会いたいって顔してるね」
「違います!!まったくもって違いますから!!」
「何年遥のお姉ちゃんやってると思ってんの?不自然な敬語は図星の証拠よ」
「そ・・・そうだよ!だってその方がいいと思うよ、会った方が嬉しいから」
「残念ながらお姉ちゃんには分かりませんねー。夏に別れてから独りぼっちなんで」
今頃成敏くんはどうしてるかな。
大晦日だし、年越し蕎麦を食べてるかな。
こっちはね、大変だよ。両親とも蕎麦を買うの忘れたらしい。
お姉ちゃんが事前に買っといてくれたから無事だったけど・・・
クリスマスに呼ばれた時は本当にびっくりした。
成敏くんには悪いけど、まさか呼ばれるなんて夢にも思ってなかったから。
「ん?あっごめん、電話」
「どーせ彼氏からでしょーね。あーやだやだ!」
不貞腐れるお姉ちゃんをよそに、私は電話を持ってトイレに入った。
成敏くんの声が聞ける。そう思うと胸が高鳴って・・・
でもその期待は裏切られてしまった。
『もしもーし、遥?いまどこ、実家?』
「・・・何の用よ」
『そんな分かりやすい嫌そうな声出さないでよ。ちょっとさ、伝えたい事があって』
電話の相手は弥生からだった。
こんな時間になんだろう、わざわざ言いたい事って・・・
『おめでとう。やっと成敏と付き合えて』
「え・・・ついこないだ言ってたじゃん、なんで」
『もう一回言いたかったの。遥も成敏もなかなか告れなくて、見ててめちゃくちゃもどかしかったんだよ。だから、やっと・・・って思ってさ』
「あ、ありがとう。ごめん心配かけちゃって」
『あんまりくっつかないから成敏と一緒に呼び出して2人きりにさせよう、と思ってたの。でもそれは必要無かったみたいね』
「いいよそこまでしなくて!」
『あははははっ、ごめん変な電話して、じゃあまた。よいお年を・・・ふふっ』
なんだか嬉しかった。
本当に私達の事を思ってくれてるみたいで、ちょっとくすぐったいけど・・・
「あっ、また。弥生?」
すぐに電話がかかってきたけど、今度は違う。弥生でも成敏くんでも無かった。
『もしもし遥ー?いま成敏くんそばにいる?わけないか、帰るって言ってたもんね』
「杏子は賢司くんと一緒じゃないの」
『ううん、お正月は家族と過ごすよ。あのね、ちょっと言いたい事があってー』
「なあに?」
『えへへ、おめでとー。成敏くん、遥の彼氏になったね』
杏子も弥生と同じだった。
前にお祝いしてくれたけど、どうしてももう一回言いたかったらしい。
『ダメだよ、これからは成敏くんを大事にしなきゃ。クリスマスみたいに寝てちゃいけないからねー』
「もう忘れてよ。あれは悪気があったわけじゃ・・・」
『じゃ、また来年。よいお年を・・・えへへっ』
成敏くんは大事な彼氏だ。
でも弥生も杏子も私にとって大事な友達なんだ。
「なによにやにやして。もう彼氏との電話は終わり?」
「違うよ、友達からだって」
「うそー。めっちゃにやけてるよ。歯見せすぎ」