雨の半休日-10
階段を上がる足が震える。
バスタオルの継ぎ目を、ぎゅっと握って緊張に耐えて。
深呼吸をしてから、階段からすぐのアニキの部屋をノックした。
…―カチャ…
アニキは、ベットの脇で、なにやら荷物をゴソゴソやってた。
「…お、お待たせ…」
「あぁ、…って!
お前、服着ろよ!」
「お風呂の前に、持って来んの忘れちゃって…。
アニキの方が、部屋手前だし、いいかな、って」
なんとか平静な声を出せた。
「…いいかな、って…おい…
とにかく早くフトン入れ!
カゼひくぞ!?」
そう言って、アニキはベットの掛け布団をまくった。
その様子にいやらしさは全然無くて、まるで"優しいお兄ちゃん"みたい。
あたしも純粋に冬のお布団が嬉しくて、いそいそと潜りこんだ。
「なぁ、なんでお前、今日は帰り早いんだよ?」
アニキが荷物を置いて、こちらを向く。
「今日は、期末テスト最終日。
雨だから、部活も休みになったし。
も〜、急に降ってきたから、ほんと困ったよ〜」
アニキは、傘持ってってたのかなぁ?
「それより、アニキこそ、なんでいるのよ?
最近ずっとバイトだったんでしょ?」
「オレも、雨で休み。
今、道路工事のバイトやってっから。
…つーかさ」
「…何よ?」
「…オレのこと、アニキって呼ぶの、やめない?」
「…へ!?」
じゃあ何?
名前…貴哉って呼べ…ってこと…?
うげ!それは恥ずかしいんだけど。
「昔みたく、お兄ちゃん、て呼べねーの?
なんか、アニキってチンピラみてーじゃん」
…あ、そういうことか。
お兄ちゃん。
昔は、そう呼んでた。
仲が良かった頃は。
いつの間にか、にーちゃん、とか、アニキ、とかに変わっていった。
「…まぁいいけど。
そもそも、中学くらいから、あたしに冷たくしたのが悪いんだからねっ!?」
「そりゃ、反抗期ってやつだろ?
むしろ、お前が今、反抗期なんじゃね?
この間みたく、可愛く『お兄ちゃあん!』って言ってみろよ?」
「…んなっ!?」