ほたるのひかり、まどのゆき。-6
「まったくもう、ちゃんとしてくれないと困るじゃないの」
「へーい……」
「……あたしが惚れた男なんだから、さ」
「……………」
どうしてこうこの人は、たまに不意を突くようにこんなに恥ずかしいセリフを口にできるんだろうか?
付き合ってから生まれた疑問の一つである。
「……ちょ、ちょっと!黙ってないで何か言いなさいよ!」
基本、恥ずかしがり屋のくせにさぁ。
真っ赤になっちゃって……本当にカワイイ人である。
「俺が惚れたのも無理はない……」
「はぁ?」
今度は怪訝な顔をされた。
しまった。無意識の内に声に出てたか……。
「とにかく!私がいなくなっても、ちゃんと頑張るのよ?」
「分かってます。頑張れるように、頑張ります」
「やればできる子なのは、私知ってるんだから」
受験生である先輩に俺が心配されてしまっている。
頼りないと思われるのもやむなしである。
――と、そのとき。
日も沈みかけ、オレンジから紺へと変わる空に包まれた校舎に、下校を促すチャイムが鳴り響いた。
もうじき学校も閉まる。
「……そろそろ、帰りましょうか」
「そうっすね」
名残惜しそうにもう一度音楽室を見渡し、先輩がドアに手をかける。
この二人っきりの時間もこれで終わってしまう。それがなんだか、ちょっと寂しかったから、
「先輩」
「ん?なに、っん……」
振り返った先輩の唇に、不意打ちのキス。
先輩はびっくりして目を見開いていたが、やがてゆっくり閉じた。
軽く合わせるだけの、……だけども長い時間をかけた繋がりはやがて、ぷは…という小さな吐息と共に、どちらからともなく離れた。
非難するようなジト目で、しかし顔は真っ赤にしたままで先輩がボソリとつぶやく。
「……音楽室でするとか、変態。」
「変態はひどいです」
「……えっち」
「それは認めます」
「――――っ、ばか」
「そですね」
ホントに馬鹿よ……と赤い顔で俯いて呟く先輩を、ギュッと抱きしめる。
「……大好きですよ、先輩」
「知ってるわよ。……ん、私も」
――見回りの教師の足音が聞こえて慌てて離れるまで、俺達はお互いの暖かさを噛み締めていた。