シグナル¨6¨-3
エレベーターに乗せられ、着いた先は誰もいない屋上の喫煙所だった。
煙草なんて吸わないのにどうしてこんな所に連れてくんの?
「・・・よし、誰もいないな」
「ねえ速人、何の用なの。いきなり連れてきてさぁ」
目の前にいる馬鹿こと速人はあたしの両肩を掴み、深く息を吸い込んだ。
何だか嫌な予感がする。
また、悪ふざけでもしようとしてるんじゃないかな。
「好きだ、弥生。俺と付き合ってくれ」
「・・・どこによ」
「いやだから、付き合ってくれ。俺と」
「だから、どこに付き合うの」
やっぱり、こんな事だろうと思った。
成敏が言ってた通り、賢司と杏子が付き合い出してから焦ってる、ってのはマジらしい。
悪ふざけとだらしなさだけで脳ミソが構成された奴に告られても、こちとら全くキュンとしないんですけど。
「弥生、分かるぞ。お前がなかなか笑顔を見せないたちだってのはな」
「それなりには笑うよ。あんたに対してはした事ないけど」
「だから、突然の告白に驚いてどんな返事したらいいか分からないんだろ。だが、難しく考えるな。
愛の告白に対しての答え方は実に単純だ。顔を赤くしてうん、と頷く。これだけだ、さあ」
「勝手に1人で話を進めんなっての。なんであんたに告られなきゃなんないわけ?」
杏子は賢司のさりげない、でも確かな優しさに惹かれて好きになった。
遥は・・・口を開けば成敏がどうだ、あれをしてる時はああだとか、嬉しそうに話す。
まだ付き合うまでいってないけど、どっちかがいけばすぐだ。
でも、さあ・・・
速人とあたしって、単なる友達だし。
何気に一番進展してない感じだしさあ・・・
気兼ねなく悪口を言える様な奴にいきなり好きだって言われても、俄かには信じられない。
「だって俺らもう付き合ってるみてーなもんだろ?でも、改めてお付き合いお願いします、みてーなよ。な?」
「・・・軽すぎ、ケツ」
こいつは悪い奴じゃない。
いると雰囲気が明るくなるし、笑わせてくれる。
さっきはこいつの話で笑った事ないって言ったけど、それは強がり。
でも、笑うのは下手だ。
ただ元からあまり笑わないだけで、可笑しい時は誰にも遠慮はしない。
「そろそろ戻っていい?杏子達待ってるだろうし、ここヤニ臭くて嫌なんだけど」
「やだ!退かないぞ!」
速人はドアの前に両手を広げて立った。
どうやら、私をここから出さないつもりらしい。
「弥生が速人大好きって抱きついてくるまで、テコでもどかねえからな!」
「力ずくで言わせて楽しい?あのさ・・・言いたくないけど」
「何だよ!」
果たしてこれを伝えるべきかどうか迷った。
でも、ちゃんと言わないとこいつは目を覚まさないだろう。