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God's will
【その他 官能小説】

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Suicide-4

 <僕>の実家は北海道留萌市にあった。そこでは祖母がひとりきりで生活をしていた。もう八十歳も半ばになる。<僕>の父は借金を背負っていて、名古屋に出稼ぎに行っていた。母は<僕>が幼いときに病気で亡くなっていた。

 <僕>は由佳の死をきっかけに短期大学を中退し、置物のように静かな祖母が一人きりで生活をしている北海道留萌市の実家へ帰った。<僕>の突然の帰郷は、由佳の死にまつわるよからぬ噂を立てることになった。仲良く同棲していたカップルの片割れが首吊り自殺を遂げた後、葬式にも出ず、涙も流さず、一人で帰郷する姿が世間からは稀有に見えたのだろう。勿論、多くの人間は僕が北海道留萌市に帰郷した事は知らない。知っているのは、警察関係者の一部の人間たちだけで、同級生の多くは<僕>は人知れず失踪した、という風に思っていた。

 <僕>も詳しい事情は知らないが、由佳の死にはいくつかの疑問点があったようだった。体に虐待の後と思しき痣がいくつか見つかったのだ。それが原因となり、さらには<僕>の行動から、ひょっとしたら由佳は宮下勉が殺したのではないかという疑惑が一時期もたれた。でも、それは<僕>のつけた痣ではない。おそらくは由佳の性行為の相手がつけた痣なのだろうと<僕>は思っていた。そのようなことを刑事にはあらいざらい全て話した。<僕ら>の関係がもうすでに終わっていた事も。僕にはセックスフレンドがいて、由佳には<僕>以外の恋人がいたことも。

「こんな事いうのはお節介かもしれないし、私の勘違いかもしれないし、赤の他人が言うべきじゃないかもしれないですが」と前置きをしてある一人の刑事は言った。「由佳さんはそんな生活の中にあって、少しずつ自分っていうものを失くしていったんじゃないかな。彼女はきっと寂しかったんだと思うんですよ。完全な孤独っていうのは人を殺す凶器のようなものですよ。私はそう思う。近くにはたくさん人間が一緒にいる。家に帰っても、一緒に暮らす誰かが居る。会話を交わす人たちもいる。決して一人ぼっちじゃない。でも、そこには何か大切なものがないんだ。なくてはならないものがそこにはないんだ。寂しい事です。一人きりの孤独よりも、誰かと一緒にいるときに感じる孤独の方が質としては純粋な孤独ですから。それに、宮下さんと由佳さんの暮らしはとてもじゃないが正常な生活だったとはいえないと思うんですよ。恋人でもなく、家族でもない男女が暮らす例というのは確かに何度か見たことがある。でも、ほとんどの人間はそういうことをしません。ほとんどの人間がそういうことをしないっていうのは、きっとそこに歪みがあるからなんじゃないだろうか。そしてその歪みは少しずつ少しずつ人の心を壊していくんじゃないだろうか。そう思います。宮下さんの話だと、これといったきっかけがあって、それで由佳さんが死ぬ事を選んだというわけではなさそうだ。それに、宮下さんは一応は由佳さんとそれなりに上手くやっていっていたと思っているようです。でも、本当にそうでしょうか。私は別に宮下さんを責めてるわけじゃありません。本当です。でも、若い人が死ぬというのは私としては面白くありません。特にそれが自殺であるならば。ねえ、宮下さん。動物って自殺をしないんですよ。不慮の事故なんかで死んでしまった飼い主の側を離れようとしないで、結果的に餓死やなんかで死んでしまう動物はいますが、自分の意志で死んでいく動物は人間だけなんです。動物の中で人間だけが自分の意志で、自分で死ぬのです。動物には本来自殺という思考回路は無いんじゃないでしょうか。そして、人間も動物である以上、本質的には自殺回路なんかないのではないでしょうか。自殺というのは動物の本能を越えたところにある思考回路なのだと私は思います。そして、それを選ぶときには絶対に何か理由があるはずです。私はそう思います」

 


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