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God's will
【その他 官能小説】

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Suicide-3

 百万部を越す大ヒットとなった「完全自殺マニュアル」の中でもブロムワレリル尿素を主成分とした医薬品での自殺の方法は勿論とりあげられており、結果、ブロムワレリル尿素主成分薬による中毒、要するに自殺未遂が激増した。その方法はかつて芥川龍之介が自殺をした方法としては余りにも有名で、また、太宰治が自殺未遂をした方法としても知られる。

おまけに、ブロムワレリル尿素を主成分とした医薬品は処方箋無しで薬店で簡単に手に入れられる事も薬物自殺が増加した要因だった。それまでは神経鎮静薬として特に問題視されてはいなかったものの、「完全自殺マニュアル」のヒットにより、ブロムワレリル尿素という成分と、その容易な入手方法が明るみに出てしまったのだ。

ドラッグストア業界や薬局、薬店で医薬品販売に携わる従業員たちもこの点に留意し、大量販売は避けてはいたが、定番品として扱っている以上、各店を回ってしまえばいくらでも簡単に手に入る。そのようにして知る人ぞ知る情報は、割と皆が知っている情報に変貌を遂げ、結果として社会に余り良い影響は与えなかった。

一錠辺りブロムワレリル尿素100mgを含む医薬品は、それらの社会的背景があり、2001年の9月に製造中止となったが、由佳が服用したのはまさにそれで、そのときにはまだ流通していたのだ。

<僕>は自殺未遂をした由佳が結局は何事もなく退院したものの、まだ学校へは行けずに居た一ヶ月ほどの時間を共に過ごした。その間は勿論セックスフレンドに一度も会わなかった。そんな事をする気分にもなれなかった。その時に、<僕>は由佳の選んだ自殺の方法や背景についてを調べ、「完全自殺マニュアル」を読破し、そして結局は由佳が首吊り自殺を遂げた後も、情報収集を続けた。そうしない訳にはいかなかった。日本国における自殺者数の推移や、年代別、性別別のデータなど毎年更新される情報を細かくチェックした。失業率と自殺者数の関連についての記事も読んだ。

 由佳は自殺未遂をした動機について何一つ語らなかった。もしかしたら、彼女自身何故自分が死にたいのか、その明確な理由は分からなかったんじゃないだろうかと<僕>は思う。そして、結局<僕>に何も言わないまま、由佳は「完全自殺マニュアル」の最も推奨する首吊りという方法で自殺に成功した。

 もうどれだけ求めても由佳には会えないんだ、と<僕>は思った。二人の関係がもうすっかり終わってしまった後でも、<僕ら>は友人関係として、いささか奇妙な形ではあったけれど、それなりに上手くやっていたつもりだった。会話をすることもあったし、一緒にテレビを見ることもあったし、一緒にご飯を食べる事だってあった。由佳の寝言を聞く事だってできたし、由佳の下着を容易に確認することすら出来た。

 でも、由佳はもうこの世界には居ない。人間関係には様々な終わり方があるけれど、死が二人を分かつというのは、その中でも最も致命的だ。憎しみはいつか晴れるかもしれない。生きていれば、いつかどこかでお互いの人生を導くレールが交わることもあるかもしれない。でも、死は別だ。<僕>がいくら声を振り絞っても、いくら手を伸ばしても届かない。自己を犠牲に歩みよっても、お互いの理解を求め合っても、そこには意志はない。何もない。<僕>は何もない空虚な場所に声をかけ、手を伸ばすことになる。

 由佳を完全に失ったとき、<僕>は自分にとって由佳がどれだけ大切な存在だったかを思い知った。そして、それを失った<僕>は文字通り抜け殻のようになった。

 


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