『ツンデレちゃんと硬派くん』-3
…―ガラッ
戸を開けると。
…―やっぱり。
洸太郎が寝ていた。
窓を網戸だけにした部屋は明るく、髪が茶色く透けて輝いているようだ。
しばし見つめてみるが、その硬派な印象は揺るがない。
「…小沢くん。…小沢くん?」
…―困ったな、起きない。
「……こうたろう、くん」
名前で呼んでみた。
なんとなく、そんな気分だったから。
すると洸太郎は、…う〜ん、と唸って、反対側を向いてしまった。
…と。
――ガバッ!
いきなり飛び起きてこちらに向き直ったものだから、まともに目が合った。
「……橋島?」
「ぁ、あの、お昼ごはん…」
そう言ったのに、洸太郎は動かない。
「…李湖?」
もう一度、今度は名前で呼び直された。
寝起きのかすれた声が、妙になまめかしく李湖の耳に届く。
「…今、おれのこと、名前で呼んだ?」
「…!…起きてたの!?」
「いや、起きてたっつーか、それで目が覚めた。
…ね、李湖。
こっち、おいで?」
呼ばれて、「ごはんが」とか「みんなが」とか呟きながらも、李湖は引き寄せられるように隣に座ってしまった。
洸太郎のまなざしは暖く、またも李湖は心の奥で違和感を感じる。
「もっかい、おれの名前呼んで」
「…こうたろうくん」
寝起きの小沢くんは子供みたいだ、と思いながら、李湖は名を口にする。
「もう一回」
「洸太郎くん」
「…なんか新鮮でいいなぁ。
ねぇねぇ、ところで…」
ふわっと満足そうに笑うと、武骨な指を伸ばし、李湖の鎖骨をなぞった。
「…っ!」
「まぁたこんな服着て。
…誘ってる?」
「ちっ、違うよ、持ってきてる服が、こんなんばっかなの!」
今日はスクエアカットのTシャツで、両肩ぎりぎりまで開いているため、ブラのヒモは外してある。
洸太郎の指は、鎖骨をなぞり、首すじをくすぐりながら上がって、ほおをすりすり撫でてきた。
血の昇った顔は、指の跡が特に熱い。
「…もしかして、鎖骨はけっこう李湖の自慢?
でも、この鎖骨はおれのモンだから。
今すぐ食べちゃいたいけど…」
「…小沢くん…」
「李湖、おれのことも、名前で呼んで。
さ、メシ行こう」
…どうにも心の中の違和感を処理できないまま、李湖は洸太郎に付いて食堂へ下りて行った。