三人の男たちの冬物語(短編1)-6
「…もう…もう、カヨコさんに鞭なんて必要ないよ…」
突然、背後からボクに言葉をかけられ、驚いたように振り向いたカヨコさんと目が合う…。
一瞬、ふたりのあいだで時間が止まる…。
そして、ゆるやかに流れ出した時間が、ボクたちを遠く懐かしい過去へと運んでいくようだった。
ボクが触れたカヨコさんの指先からは、ボクが初めて彼女に出会った頃の優しさにあふれたぬく
もりが、じんわりと伝わってくるようだった。
ボクの前で戸惑いながら、うつむいたカヨコさんの澄んだ瞳の中が、かすかに潤んでいるのが
わかった。
そして、カヨコさんは、ボクの胸の中にそっと顔を埋めた。そのとき、彼女の頬にすっと流れた
ものが、ひとすじの光を放った…。
「…あのころみたいに、またボクといっしょに暮らそうよ…」
その言葉に、カヨコさんがボクの胸の中で小さくうなずいた。
カヨコさんの中にあるあたたかさが、握りしめた彼女の指からボクの心の中に、ほんのりと広が
ってくるようだった…。
「…愛しているよ…」
ボクは、強く抱きしめたカヨコさんの耳元で小さく呟いた…。