シグナル¨1¨-6
「・・・妹尾さん」
「えっ?なに成敏くん、ぼく聞こえなかったよ。もっと大きな声でお願いしたい」
「もうよせ速人。電車来たぞ」
通学に使う電車が別々の線だったのを、この時だけは感謝した。
僕は逃げる様にやってきた電車に飛び込み、ガラス越しに2人に苦笑いを見せた。
「ふぅ・・・すぐ来てくれて助かった・・・」
丁度空いてる時間だったので座ることが出来た。
座席につけた背中が粘ついて気持ち悪い。ああ、さっきは嫌な汗をかかされたな。
行きの時にかいたのとはまた違う種類の汗だ。これが冷や汗ってものなのか。
明日までに忘れててくれないかな。
さっきまで楽しかったのに、何だかもやもやしちゃうよ。
(そういや、あの子としか話してなかったよな。なあ速人)
(そうだそうだ、成敏はあの子しか見てなかったはずだ)
・・・高校からの付き合いだからお互いの事は大体分かるんだよな。
多分、わざわざ言わなくてもばれてたと思う。
僕が一番気になってるのはあの子だった。
(頼れる人だって思ったから)
あの言葉が僕の耳に残って奥の方で谺している。
妹尾さんはかなり切羽詰まってる感じだったし、藁にも縋る思いだったんだろう。
でも、僕じゃなくて携帯を拾ったのは速人だった。
彼女は速人の事をどう思ってるのだろうか?
もしコンビニまでの道のりで注意深く見ていたら、僕が拾っていたかもしれない。
「これから、頼れる人になればいいじゃないか」
決意した訳じゃない。
負け惜しみの様な、言い訳にも聞こえる言葉を呟き、目を閉じる。
−これが、僕と彼女の、最初の出会いだった。
〜〜続く〜〜