EP.2 お兄ちゃんは超テッペキ-1
「ひかり、おは・・・」
自分の部屋を出たタイミングが悪かったのか、一番顔を見たくない相手と鉢合わせてしまった。
ひかりはそのケダモノに返事どころか一瞥すらくれず、どすどすと階段を駆け降りていく。
「ひ、ひかり待ってくれ、せめて睨んでくれないか。お前の反応が欲しい」
典明は縋る様に手を出したが妹の背中には届かなかった。
昨日から夏休みだというのに彼の心はどん底だった。
あの事件から2週間過ぎたが、ひかりは典明を拒否し続けている。
元からあまり良好では無かった2人の仲は、最早修復が不可能な程深い溝が出来ていた。
だが、それは典明が悪いのだ。
妹を助けたいという想いが過剰に膨らんで、気が付けば乳房を揉んでいたのだが、ひかりにしてみれば強姦と変わらない。
(ふっ・・・でかくなりやがって・・・)
伸ばした手を見て、その感触や重みを頭の中で反芻していた。
たった今妹のしかめっ面を見たばかりなのに、果たして彼に罪悪感はあるのだろうか?
挿入こそしていなかったものの、ひかりがあと数秒目を覚ますのが遅れていたら、取り返しのつかない事態を招いていたのだ。
「何をやってるんだ俺は・・・はぁ・・・」
寝起きで膨らんだジャージの下の部分を見てしまい、ため息を吐いた。
どうやら多少は自責の念がある様だ。
「自慰でもして寝るのが一番だ。俺の傷付いたハートを癒すにはそれしかない」
部屋に戻り、積んである成年向けの漫画雑誌を手に取る。
しかしそのままベッドにスタンバイはせず、部屋から出て妹の部屋に入った。
典明の思考は正常な判断が出来ない程おかしくなっていたのだ。
「やっばー携帯忘れた。あの変態、部屋に戻ったよね・・・」
そこへひかりが引き返してきた。
阿鼻叫喚迄あと僅か。
「きゃああああああああああああ!!」
「ひっひかり!違うんだこれは!っていうか何故俺は妹の部屋でマイクを握ってるんだ?」
兄が自分の部屋で全裸になっているという光景は、思春期の女の子には刺激が強い。
まして半月前に犯されそうになったひかりにとって、殊更エキセントリックだったのだ。
「痛い!こら、椅子は投げるものじゃない、女の子なのにはしたないぞ」
果たしてどの口が言えるのだろうか。
ひかりは机に置きっぱなしの携帯を持って、さっき出たよりも早く階段を駆け降りていった。