ホテルノヒカリ1-2
「あ!あぁ!バスですね!では行ってきます」
「お気をつけて!」
うっ!彼のピシッとした敬礼。
胸をズキュンと撃たれた。
「では!…乗ります!乗ります!」
私は恥ずかしさを隠す様にバタバタとバスに飛び乗っていった。
いや〜しかしカッコ良かったなぁ。
仕事中も仕事が終わっても彼の敬礼姿で頭がいっぱいだった。
家に帰ってきた。
私の住んでいる家はホタルちゃんちみたいな平屋の一軒屋だった。
もちろん縁側もある。
あ〜あ…この縁側で彼と『ホタル○ヒカリ』ごっこしたいなぁ。
そんな事を考えながら私は無造作に縁側に取り込んであった洗濯物の山を居間へと移動した。
お風呂入ろ…。
パンツ…パンツ…はっと。
私は洗濯物の山をかき分けて洗濯したパンツを探した。
「あれ〜ない!ない!」
洗濯物を取り込んだ時には確かにあったパンツがなくなっていた。
三枚…洗濯しておいたんだけど…三枚ともない!
普段穿けるパンツが四枚しかない私に取っては貴重な三枚だった。
残っているパンツは穴が開いちゃったヤツとか…元々穴の開いてるヤツとか…スケスケのTバックとか…貝殻とか。
今穿いてるヤツ以外は冗談みたいなパンツしか残ってない!
もぉ〜誰よぉ!
パンツを盗まれて恥ずかしいという気持ちよりも…。
まずは困った。
これが一番であった。
不幸にも給料日まで後十日あまり…手持ちに余裕もなかった。
背に腹は変えられぬ私は彼のいる交番の前まで来ていた。
彼が居たら恥ずかしいけど…。
でも…もしかしたら…何かのきっかけになるかも。
「す…すいません」
私は物凄く複雑な心境で交番に入っていった。
「どうされました?」
交番の奥から朝と変わらぬ爽やかな彼が出てきた。
「あっ!あなたは…」
彼が私の顔を見るとニッコリと微笑んでくれた。
非常に嬉しい展開なのだが…。
「あの…実は…」
私はショート寸前になりながら下着が盗まれた事を彼に告げた。
「何だって!そいつは大変だ!ちょっと簡単な調書を取らして貰っていいですか?」
「は…はい」
簡単な調書を取る上で私は自分の名前を名乗った。
森野美沙…それが私のフルネームだ。
彼も自分の苗字と階級を名乗った。
寺脇さん…巡査長だそうだ。
何とも予想外で味気ない自己紹介になってしまったが。
自己紹介し合えただけで儲け物ではあった。
「じゃあ…森野さん…これから現場に向かっていいですか?」
調書を取り終えた寺脇さんの目は真剣だった。
いつも優しいオマワリさんの目ではなく悪事は決して見逃さない警察官の目になっていた。
私と言えば…。
わぁ〜寺脇さんが家に来るんだ…と舞い上がりながらもひとつの重大な事実に気がついていた。
部屋が散らかっている。
かなり散らかっている。
「あの〜今日じゃなくても…」
私は引きつった笑いを浮かべながら囁いた。
「でも…家の中にあったのに盗まれたんですよねぇ…結構深刻な状況も考えられます」
まぁ…家の中と言えば家の中だが…。
それにしても真剣な眼差しだ…照れちゃうよ。
結局、寺脇さんの真っ直ぐさに押し切られ、私と寺脇さんは私の家に向かう事となった。