Island Fiction第3話-1
わたしはバカではなかった。
と、信じている。
バカではないけれども、無知だった。
知識に偏りがあった。
ヘミングウェイを知っていたし、ボッティチェリも知っていた。
でも、サリンジャーやリキテンスタインを知らなかった。
エルメスは知っていたけれども、サマンサタバサは知らなかった。
ナイン・インチ・ネイルズやレディオヘッドは知っていたけれども、マリリンマンソンやオアシスは知らなかった。
だから、森脇京太郎なるアイドルの名前を聞いてピンとこなくても仕方がなかった。
森脇は両手両足を縛られ、猿ぐつわを噛まされ、床に転がされていた。
顔が恐怖で引きつり、目には涙を浮かべていた。
自ら望んでここへ来たのではないことは一目瞭然だった。
「おまえたちへのプレゼントだ」
とお父様がおっしゃった。
「イケメン!」
クルミが間髪を入れずに感嘆した。
「プレゼントって?」
アザレアは男を物珍しそうに眺め、指でツンツンとつついていた。
「好きにしていいぞ。他のチンコも味わってみたいだろ?」
わたしたちは乱交が未経験だった。
日頃仲のよいアザレアとの3Pも初めてだった。
わたしは心が躍りつつも、恥ずかしさもあった。
アザレアと目を合わせると、彼女も気恥ずかしそうに肩をすくめて見せた。
クルミが我先にと飛びついた。
むしり取るようにジーンズとセクシーなブリーフを膝まで脱がすと、情けないほどに縮こまった陰茎が横を向いて垂れ下がった。
「こらこら、はしたないぞ」
お父様に叱責され、わたしたちは慌てて洋服を脱いだ。
クルミがキスをしようとして、男は必死に抵抗しようとしてウーウーと呻った。
クルミははたと気がついた。
猿ぐつわが邪魔をしていて、どう角度を変えようとも舌を入れようがなかったのだ。
「お父様、これ、どうやってキスすればいいのぉ?」
と困って訊いた。
「猿ぐつわを外せばいい」
「あっ、そうかぁ」
アイドルとは人気テレビタレントのことだ。
日本中の女子が彼に熱狂しているらしい。
この男のどこにそんな価値があるのか理解できない。
確かに、森脇は綺麗な顔立ちをしている。
イケメンとはこういう中性的な男のことをいうのだろう。
でも、わたしはお父様の方が何百倍も男前だと思う。
早速猿ぐつわを外すと、いきなり森脇ががなり立てた。