涙の理由-4
「結局、なんで死んじゃったのか誰も分からないんだよね。警察も一生懸命調べたみたいだけど。最初は自殺と他殺両方の視点で捜査は進められたんだ。何人かの容疑者も絞り込んで、追及したんだけど、結局それ以上の進展はなくて。何点か疑問はあったみたいなんだけど、結局は自殺って事で落ち着いたの。お姉ちゃんってね、私と正反対の性格なの。紫音にちょっと似てるかも。人見知りで、人付き合いは苦手で、結構一人でいることが多かったんだ。だからね、人知れずこっそり死んじゃうってことも、なんとなく、そういうこともあるのかもなって皆が思うようなタイプの人間だったの。でもさ、そういう雰囲気なだけで、やっぱり私にはそんなの信じられなかった。お姉ちゃんが自分で死ぬわけないじゃんって。だから、もしかしたらお姉ちゃんが死んじゃったって事と、何か繋がるような事が分かるかもしれないって思って、それで私は北海道滝川市にある短大に行ったんだ」
「それで、何か分かったの?」
「ううん。駄目だった」ルカは残念そうに首を振る。
「あのさ、宮下勉君の話は、なんで短大のとき、そんなに話題になってたわけ? ルカのお姉ちゃんの恋人だったから?」
「うん。それと、容疑者の一人が宮下勉君だったの。かなり有力な容疑者候補だったんだけど、結局証拠不十分でさ。だから、噂好きな人たちが、過去にあった同棲中の恋人同士の殺人事件っていう風に面白おかしくして、喋ってんの」
「そりゃムカツクな」
「そうでしょ?」
「うん。クソ野郎共だ」
「宮下勉君がお姉ちゃんを、なんて考えたくもない。だからさ、私はお姉ちゃんと、それからお兄ちゃんを助けたかったの」
「宮下勉君は、今してんの?」
「行方不明。失踪しちゃった」
僕はルカの姉の死について考える。宮下勉君がルカの姉を殺したのだろうかと考えてみる。それならば、例えばルカが僕の恋人なのだとして、僕は果たしてルカを殺すなんて事があるだろうか。そう考えて、急にばかばかしくなる。やはり、自殺と考えるのが妥当じゃないだろうか。ルカの話によれば、ルカの姉と宮下勉君の関係はきわめて良好だったみたいだし、宮下勉君の人間性もなかなかの好印象。
「ねえ、紫音は死なないよね?」
「死なねーよ」
と、僕はその時にはそう応えた。
でも、ルカが死んでしまった今となっては、僕の頭の片隅には死という言葉が常に付きまとう。死ぬことについて深く考察するのではなく、ただ純粋にその死へ導かれてしまう。ルカの部屋の机の中に入っている、カラカラに乾いた血液の付着しているカッターナイフの刃を見ていると、ルカがそうしたように自分の手首を切ってしまいたくなる。
ねえ、紫音は死なないよね? あの日のルカの言葉が、そういった僕の衝動を寸前のところで留める。僕はベッドの上で、目を閉じたままのルカのほうを見る。今はまだ、眠っているだけのように見えるルカ。僕は一つ息を吐くと、カッターナイフを机の中に戻す。
そして、その時、ふと僕は机の中に手紙を見つける。