『武骨くんと鎖骨ちゃん』-9
道の先には、すでに仲間の姿は無かった。
どのくらいの間、二人は互いの好物に溺れていたのだろう。
今更のように恥ずかしくなって、わずかに体を離した。
その空間を、夜の風が吹き抜ける。
しかし、そのくらいのことで、身体の奥の炎が鎮まるはずはない。
二人はすっかり欲情しきって、今すぐにでも繋がれそうだった。
目を合わすと、まるで互いのしたいことが通じたかのように、長いキスをしてから、手を取りあって、宿の影の暗がりに消えて行った―…。
李湖は、頭の中が沸騰しているように感じていた。
善悪も分からず、求めるままに体が動いてしまう感覚。
しかし、手を繋いで駐車場を横切る間、かすかに自我を取り戻した。
浮かんできたのは、小骨のように引っ掛かったコトバ。
…―"鎖骨フェチ"?
…そんなに、私の鎖骨はおいしそうだったのかな、
…小沢くんが、理性を切らしてしまうくらいに?
…でも、人のこと言えないか。
私だって、あの指が…あの指が口の中に入って来た瞬間に…
ざらり、と舌で味わった指の感触を思い出して、また体の芯がうずく。
あまりにその芯が、ずくずくと主張するものだから、歩くのもままならない。
宿の脇の物置の裏で、李湖の背中が壁に押し付けられる。
間髪入れずに、また深いキスが降ってきた。
「…は、っん!んふ、ぅむう…」
漏れる甘い吐息が、止まらない。
唾液がしたたる。
立っているのが…精一杯。
「…んん、んぅっ!」
とりわけ甘い声が出たのは、とうとう洸太郎の手が動き出したせい。
いやらしくさすったり、つかんだり、揉んだり。
でもなかなか、核心の快感を与えてくれない。
…―もっと…!
…もっと、ぎゅってつまんだり、ぐりぐりって、して…!
…焦らしているわけではない。
洸太郎としては、念願の李湖の体を、存分に弄びたかったのだ。
気の済むまで触って、手のひらで確かめて、しっかり自分に覚えさせたかった。
もちろん、自分の(いや、李湖のも)昂りには気付いていたが、この場所に移動するまでに少し落ち着いたのだ。
…―このまま性急に事を済まさずに、じっくり楽しもう。
李湖を、しゃぶりつくそう、と。
「…李湖」
低い声が、自分の名を呼ぶ。
そんな空気の揺らぎにも、体の奥の炎は反応する。
「おれの指、気に入った?
すげぇやらしくしゃぶって。
…おいしかった?」
その指が、こぼれた唾液をすくって、濡れたくちびるに滑る。
こんなささやかな動きなのに、痺れるような快感を生む。