『武骨くんと鎖骨ちゃん』-2
「ぶちょぉ〜、あたしの荷物、持ってくださってありがと〜ございますぅ〜!」
"部長"を「ぶちょぉ」、と聞こえさす呼び方は、マネージャーのサナだ。
悪いコではないが、"ミーハー"の一言につきる。
「さ、李湖ぉ、部屋に行こっかぁー」
李湖とサナは、去年の入学時に、お互い別々の友人を連れてマネージャーになったが、今年になってそれぞれの友人はサークルを抜けてしまい、今は少しずつ距離を縮めようとしている間柄だ。
さっぱりしたナチュラルメイクの李湖と、姫ギャル寸前のサナ。
サークルの面々は、サナ狙いも多いと聞く。
「えっ、でもサナちゃん、さっき買ったビールとか、早く冷蔵庫に入れなきゃ!」
「あ、いいよ橋島、俺らでやっとく。
飲みモンは重いし」
「小沢くん…ありがと、助かる!」
洸太郎に声をかけられ、李湖はほっとしてサナの後を追って行った。
洸太郎と李湖は、同じ学年とは言え、30人所帯のサークル内では、特に仲の良いほうではなかった。
実は洸太郎は、この合宿で少しでも李湖と近づけたら、と思っていたのだが…
「ま、オトコがいるんじゃ無理、か…」
呟くと、夏休み直前の光景を頭から払いのけ、洸太郎も宿に入っていった。
荷物を開くのもそこそこに、さっそく練習、である。
選手は、宿からジョギング10分、隊列を組んでグラウンドに向かって行く。
李湖とサナのマネージャー2人は、台車に大量のスポーツドリンクを乗せて、後からゆっくり出発した。
…―ううっ、き…気まずいっ。
サナとは、まだゆっくり話をしたことがない。
…―この子とする話題と言ったら…
「ねぇっ、李湖はー、カレシとかいるのっ?」
…やっぱりその話かぁ!
内心苦笑しつつ答える。
「いないよ?
ちなみに今、好きな人もいないんだ。
サナちゃんは?」
「んとね、カレシはいないけどぉー、保留してんのが3人、狙ってんのが5人、かな〜」
「保留?」
「うん、コクられたのとか、遊びに誘われてんのとか、あと…色々っ!」
「ふ、ふーん…」
…―色々ってなんだろ…聞けないけどっっ。
狙ってる人っていうのは…やっぱこのサークル内に何人かいるんだろうな。
キューピッド役とか頼まれたら困るなー…
と、あまり会話は盛り上がらないまま、グラウンドに到着した。