葉月真琴の事件慕〜欅ホール殺人事件〜真相〜-2
「そんなことできると思うの? どうやって?」
「落下現場に散乱していたもの、覚えてますか? 今日の台本です」
「ええ、それが何か?」
「おかしいんですよ」
「なんで? 彼は台本を読んで、前に気付かずに……」
「なんで他人の台本を見ていたのでしょうか?」
「は?」
「平木さんは台本を……」
真琴は下手にある小さな椅子へと歩み寄り、ふたを外し、
「この椅子の中に置いていたんです。平木さんは台本に細かく注意点を書き込んでいました。他人のと自分のを見間違うはずがありません」
真琴がファイリングされた台本を差し出すも、由真は見ようともしない。それは彼の推論を認めてのことだろう。
「平木さんの死体はこの柵に……洗濯物みたいに掛けられたんだと思います。そして、摩擦が小さくなるように、このファイリングされた台本が間に置かれた……」
「ふうん」
「上半身と下半身なら上のほうが重いから、後は自重で落ちる……」
「そんなトリックみたいに見せかける必要があるの? 普通に落せばいいじゃない」
「ええ、本当はそうするつもりだったと思います。けど、それだと警察に事故以外の線で疑われたとき、犯人が限られてしまいます。だから、第一発見者を別に用意したいのと……」
「アリバイを作るための時間稼ぎってわけ? じゃあ、葉月君はこの『事故』がスタッフによる行為だと思っているのね?」
「はい」
由真の感想に対して真琴は強く頷く。
「ホールには監視カメラが設置されている場所があります。事件当時、そこに居れば確かなアリバイになる」
「なら……、逆にアリバイがあるほうが怪しいというわけ?」
「いえ、犯人は平木さんの死体に細工をした後、すぐにその場を去るつもりでしたが、それは出来ませんでした。なぜなら、予想より早く鳥羽さんが戻ってきたからです」
「ふんっ……。それはおかしいでしょ? 鳥羽さんが戻ってきたときはここには誰も居なかったのよ? まさかステージに逃げたとでも言うつもり? 私も下手の控え室にいたし、隠れるところなんてないわ」
所詮は高校生の探偵ごっこ、論破したとばかりに鼻で笑う由真だが、その表情は見えない。
「あります」
だが、真琴の力強い断定に、彼女の眉がピクリと動く。
「どこに?」
それは推論に付き合うというよりは、焦燥感の篭る問いかけ。
「扉への通路です」
「扉への……通路」
「ええ。鳥羽さんは近くに誰も居ないといいました。でも本当は小さい扉のほうに犯人が潜んでいたんです」
真琴は小さな扉のほうへ行き、壁にへばりついて息を潜める。すると階段のところからは完全な死角となるのが、由真にもわかった。
「なるほど。でも、もし、彼が気付いてそこまで来たら?」
「その時は、ここの窓から舞台を見ていたと言い訳すればいい。舞台の演技のせいで物音にも気付かなかったってね……」
「そんなこと……いいわ、続けて……。なら、一郎が殺されたのはどこで、その死体は落下させられるまで、どこに隠されていたのかしら?」
残る疑問を続けざまにぶつける由真。それは彼の推論を促すというよりは、手品の種を明かしてもらおうという……の立場に近い。
「……一郎さんが殺されたのは、磯川さんがさっきまで居たところ……、大きな扉の間で平木さんは首を挟まれて……」
「……どうやってここへつれてくるの?」
「大事な話しがあるとでも言えばいいでしょう?」
「なら! ならどうやって首だけ出すって言うのよ?」
由真は自分でも驚くほど激昂していた。理由はきっと余計なことに首を突っ込んだこの高校生よりも、周りの人員に対してなのかもしれない。