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葉月真琴の事件慕〜欅ホール殺人事件
【推理 推理小説】

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葉月真琴の事件慕〜欅ホール殺人事件〜真相〜-1

〜真相〜

 上手から下手への通路。
 電気は非常灯の緑が弱々しく照らし、通路の先にある消火栓が赤く光っていた。
 何かを擦る音が、誰かの足音で遮られる。
 やがてその歩も止まり、代わりに真実を問う言葉が発せられる。
「掃除ですか?」
「ええ。利用させてもらっているわけだし、これぐらいはマナーかな……」
 真琴の問いかけに、由真は冷静に答えた。
「君は? ガールフレンド達はいいの?」
「はい」
「そ」
 彼女の軽口に、真琴は無機質に応える。
 必要最低限の言葉以外は必要ない。そんな頑なな態度で、彼は対峙していた。
「何か用かな? ここも閉めないといけないんだけど……」
「はい。事件についてです……」
 事件という言葉に一瞬由真の手が止まる。向き直ることは無いが、意識しているのは明らか。
「事件? アレは事故よ……」
 一転、空気が張り詰め始める。
「なら仮定の話として聞いてください」
「……忙しいんだけど?」
 動揺を隠すように作業を再開する由真。だが、真琴は口を閉ざそうとはしない。
「今回のコンサート、平木さんのことはありましたが、演目自体は成功でした」
「ありがとう。ボランティアの皆もがんばってくれたし、そのおかげよ」
 口ぶりこそ労うものだがあっさりとした口調で、せわしなく手を動かしたまま。
「それが疑問でした」
「失敗しろっていうの?」
 ようやく振り返る由真。暗がりで真琴からは見えないが、彼女は彼を睨んでいた。
「平木さんの代役です」
「ええ、佐々木君も見事にこなしてくれたわ」
「どうしてこなせたんでしょうか?」
「彼の実力でしょう? 他に何があるの?」
 雑巾を絞り、今度は床を拭く。
「練習無しででもですか?」
「全くの練習無しってわけじゃないわ。彼も一郎の教え子だし、舞台演習をしているところを見ていたんでしょ。彼ぐらいなら見覚えでもそれなりに演じることが出来るの」
 自分達は常人とは違う世界で生きている。そんな矜持を嘯く。
「彼を呼んだのは磯川さんですよね?」
「ええ、そうよ。人手はあったほうがいいでしょ? 延滞料金とられるよりはね」
「石塚さんに人手を増やすように頼んだのも……。貴女は平木さんがこうなっても滞りなく舞台を運べる程度の人員を手配した」
「さっきから何が言いたいの? 探偵ごっこなら学校でしてくれないかしら?」
 仮定の話しといいつつ断定する真琴に、由真は苛立ちをあらわにしだす。彼女は立ち上がり、ヒールの高い靴を鳴らしながら彼に歩み寄る。
「君ねぇ……、大人をからかうのも……」
「平木さんの殺害現場は階段じゃなく……、この下手で行われたんです」
「ふ、ふふ……おかしなこと言わないで? 死体が歩いて階段から落ちたと言うのかしら? 鳥羽さんも見ていたのよ、一郎が柵を越えて落ちるところを……」
 嘲りの笑い。だが、真琴は確信を持って続ける。
「鳥羽さんが見たのは落下するところです。落下するだけなら生きている必要はありません。あのとき平木さんは既に……」
 言葉を濁すも、それは弱気が故ではない。非常灯の緑が照らす中、真琴は唯一つも怯む様子なく彼女を見据えていた。


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