葉月真琴の事件慕〜欅ホール殺人事件-7
「何デレデレしてるの?」
すると澪が真琴の小脇を肘で突いてくる。
「別にデレデレなんてしてないよ……」
「ふうん。まぁいいけど、真琴も男の子だし、そういうのも普通よね。お姉さん悲しい」
「そんな、別になんとものないってば……」
妙なフォローを入れられては黙っていられない。おかしな誤解をされては真琴にとって大変迷惑なのだ。相手が澪なだけに……。
「あれ、真琴君! どうしてここに!?」
するとその背後から聞き覚えのある声がした。ただ、やや大きすぎたらしく、音響を担当するスタッフが眉を顰めるのが見えた。
「ちょっと梓ってば、いきなり大声出さないでよ……」
真帆は後ろに控える友人にしっと指を立てる。
「ごめん真帆……、だって、その……ごめん」
シュンとする梓だが、真帆の脇を抜けると、二人の前へとやってくる。
「えと、どうして真琴君がここにいるの?」
「あたしも居るわよ?」
「アンタはどうでもいいの。私は真琴君に聞いてるの」
妙に楽しそうな澪は赤面する梓を前に腕を組んでニヒルな笑顔を浮かべる。
「うん。僕と澪はここのお手伝い。ボランティアなんだ」
「なんだ、そうだったの……。でも、それでも嬉しいな。真琴君と会えるなんて……」
ほんのり染まる頬を両手で隠す。一人悦に浸る梓に澪も真帆も苦い顔。
「ちょっと梓、この人達は誰? 知り合い?」
一人展開について行けない真帆は腰に手を当ててお冠の様子。パンフレットに載るたおやかな少女とは思えないほどのとんがりっぷりだった。
「ああ、あのね、彼は葉月真琴君っていって、桜蘭の後輩の子。そのおまけが澪。同級生なの」
「だれがおまけよ、だれが……」
「ふうん」
澪の苛立ちも気に留めず真帆は真琴の前に歩み寄る。
「? なんですか?」
「ポン助だ」
真琴の顔を覗きこみ、一瞬にこっと微笑む真帆。
「え?」
パンフレットを下げて彼女に向き直る真琴だが、真帆を改めてみるとやはり可愛らしく、心なしか見とれてしまう。
「重いから持って」
そう言って鞄を差し出す真帆。とりあえず受け取る真琴だが、言われるほど重いわけでもない。
「さ、行くわよ」
「はい、いってらっしゃい」
真琴は受け取った鞄を隣の椅子に下ろすと、再びパンフレットに目を移す。
「ちょっと貴方、ふざけてるの!」
するといきなりパンフレットが取り上げられ、代わりに真帆の顔がアップで現れる。
おそらく怒っているのだろうけれど、上半月の目だとどうしても可愛らしさが前面にやってくる。
「えと、特にそのつもりはないのですが……」
「行くって言ってるの。貴方はポン助の代わりなんだからついてきなさい」
「ポン助?」
聞きなれない名前に首を傾げる真琴。
「……ああ、いいから、とにかく来ればいいの」
真帆は失言とばかりにはっとするが、直ぐに強引な顔になると、下手への通路を指差す。
「ちょっと真帆、真琴君に変なこと言わないでよ」
友人の蛮行を諌めるべく梓が彼女の袖を引っ張る。
「だってこの子は今日のボランティアでしょ? なら出演者であるあたしの手荷物を運ぶのも仕事の内だってば」
えっへんと胸を張る真帆に梓は複雑な表情。
「そうなの?」
「なんじゃない?」
一方、真琴は再び澪に視線を流すと、彼女も首をかしげながら頷く。
「ほらほら、控え室はこっちよ……」
どんどんと通路を行く彼女に、三人は仕方なく着いていく。当然荷物は真琴が持って。