葉月真琴の事件慕〜欅ホール殺人事件-33
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「それじゃあ、帰ろうよ……」
ロビー入り口から出ようとする澪を梓が引きとめる。
「うん、車来るから、もう少し待ってて」
「車? そんなブルジョアな……」
「姉さんが遅いからって気を回してくれたのよ」
澪は梓の財布の紐がどれほどか知らないが、「お嬢様」であることは知っている。少し前までは天気の荒れた日、梓をお出迎えするお手伝いさんの姿を見たことがあった。
「……」
だいぶ気持ちの回復してきた真帆だが、その表情にはまだ思いつめた色が残っており、たまにそれを否定するかのように首を振っていた。
「真帆さん……。真帆さんは平木さんのこと、どうしたいんですか?」
「え? どうしたいって……どういう意味で?」
突然の真琴の質問に、真帆は一瞬驚き、また目を伏せる。
「わかんない。けど、事故なら事故でちゃんとしたことが知りたいわ……。なんか現実感が無くて……」
「そうですか……」
時が経つにつれて真帆の中でもアレは事故であったと理解出来てきているのだろう。故人のことを諦めるには、気持ちの整理がつかないだろうけれど、彼女も彼女なりに「事実」を受け入れようとしていた。
「ちょっと失礼しますね……」
「え?」
そう言うと、真帆が止める間もなく、真琴はスタッフ専用の通路へと向かった。