枯れ落ちる葉、朱に染まる紅葉-27
「あぶないですよ! あぁ、えっと、男子のほうはどこが濡れてるんです?」
「ああ、お前のベッドだ」
「え!?」
昼頃はとくになんとも無かったはずが、今になって水浸しになるとは予想していなかった。
嘘であってほしいが、偽ることでのメリットもなし。自分は良いとしても良子のほうはどうするべきか。いくら寝心地の悪いベッドでも、床に寝ることは辛いだろう。部屋はいくらでも空きがあるわけだが、布団が無い。
「うああ、最悪〜、もうこうなったらとことん飲んでやる〜」
髪を濡らした良子は散々といった様子で戻ってくると、手酌で一気に呷る。
「どうかしたのか?」
一転した雰囲気に智之と紀一がやってくる。
「ああ、それがバンガローで雨漏りがしてさ……」
「雨漏り?」
「しかも、俺のベッドと竹川先輩のベッド」
「マジか……」
武彦だけならなんとかなるだろうが、良子のベッドとなるとそうは行かない。智之は「管理人に〜」と言うと、部屋を出る。
ひとまず部屋を借りて、男子の布団を一つ持ち込めば、良子のことは何とかなるだろう。もう一人の不幸な男子は誰になるのか。武彦は未だ自棄酒を呷る良子に絡まれまいと、食堂を後にした。
智之の交渉の結果、二階のはじっこの部屋があてがわれた。
バンガローの雨漏りは管理側の手落ちということもあり、特に利用代金は要求されず、謝られた。布団はクリーニングに出しているらしく代わりがなく、紀一の布団を運ぶこととなった。
良子はそのことを聞くと、今度は祝い酒と称して飲み始める。まだ宴は続く様子だった。
結局、武彦も良子に捕まり、十時ごろまで付き合わされたのだった。
女子部員達が引き上げたのを見て、良子も思わずそれに倣うが、武彦に言われて二階の部屋へと移動する。
簡単に掃除をしたあと、武彦も布団の無いバンガローへと移動した。
床に寝そべる武彦と紀一。先に就寝していた智之と克也の寝息と、かすかな雨音。時折隣の部屋から聞こえる酒盛りの声に悩まされるが、溜まった疲れとアルコールによるもので、すぐに眠りへと落ちて行った……。
**――**
朝、喉の渇きで目を覚ました武彦は、豪快ないびきをかいている紀一を尻目に、バンガローを出る。
東の空からは太陽が昇っており、昨日とはうって変わって西の空にも雲ひとつ無い。けれど、地面はぬかるんでおり、山道を歩くには不向きだろう。
早起きな管理人が彼に気付き、「お湯は出してあるから」と教えてくれた。
武彦は調理場で水を飲むと、顔を洗うついでにお風呂に行くことにする。
なんだかんだで昨日は満足にお湯に浸かることができなかったわけで、夏の風呂なら温湯も丁度良いと、いそいそと向かう。
暖簾をくぐって脱衣所へといくと、ばさばさと何かを広げる音がした。誰かが朝風呂でもしているのだろうと気にせずに行くと、そこには素っ裸のさつきの姿があった。
「きゃっ!」
慌ててバスタオルで体を隠すさつき。武彦も後ろを向く。
「す、すまん」
武彦は慌てて外へ出る。
自分が女湯のほうへ入ったのかと、暖簾を確認するが、青い布に男としっかり書いてある。では何故さつきがそこにいるのかがわからない。
ひとまず彼女が出るのを待つこと数分、髪をアップにさせたさつきが出てくる。
いつものデニムにTシャツ姿。薄い青はしっかりとブラを透かすこともない。ただ、湯上りの朱に染まる肌と、水気を含んでつややかな黒を目立たせる髪は、普段より色っぽさが見えた。
表情は裸を見られた恥ずかしさからか、怒っているようにも見える。