枯れ落ちる葉、朱に染まる紅葉-16
「……やっぱりするんですか……」
「……しょうがねえだろ、時間ないんだし……」
しばらくすると、誰かの話し声が聞こえてくる。それは武彦のほうへと近づいており、曲がり角からは先ほど探し歩いたさつきの姿があった。
「さつき!」
「あ……、武彦。どうしてここに? 試験が終るにはまだ早いんじゃないの?」
「ん? まぁ、そうなんだけど、なんか過去問に抜けがあってさ……」
「え、まさか……」
はっとするさつきはやってきたもう一人を見る。
「あら、武彦。どうして……」
「夏雄先輩、今日が例のテストだったみたいですよ……」
「え? あぁ、しまったなぁ……」
渋い顔をする夏雄は鍵を片手に部室を開け、二人を促す。
「えと、どういうこと?」
「いやさ、過去問に抜けがあってさ、さつきちゃんか紀一からメール無かった? 急いでメールしたんだけど、間に合わなかったかな。必修科目のやつが奥で誇り被ってて、渡そうと思ってたんだけど渡しそびれて……。すまん!」
深々と頭を下げる夏雄に、逆に申し訳なくなる武彦。もとはといえば彼がしっかり勉強をしていないのが原因であり、過去問を頼る姿勢にこそ問題がある。
「そんな、先輩のせいじゃないですよ」
「え〜、でも武彦、それじゃ試験は大丈夫? 武彦の方の先生、前期試験の内容によっては追試なしで落すって噂だよ?」
「まじで? やばいなぁ……」
「あんだよ、あいつがかよ……。しょうがない。俺が掛け合ってやるよ!」
夏雄は誇らしげに胸を叩いて武彦に向き直る。
「そんなことできるんですか?」
「ん? まぁ、OBの力を借りるんだけどな……」
「はは……」
こともなげに言うが、それはかなりの荒業であり、武彦としてはありがたい半分、恐ろしさ半分といったところだ。
「えと、確かこれだな。うん。まぁ、追試にはなるけど、がんばれ」
夏雄は折りたたまれた過去問を手渡すと「俺を信じろ」と再度胸を叩く。
「じゃあ、まぁ……」
武彦も素直に受け取ると、鞄にしまう。
「えと、さつきは何しに来たの? テスト無いよね?」
一安心したところで別のことを思い出した武彦は、さつきに向き直る。
「あたし? あたしはただ……何しにっていうか、その……お昼食べて、そんで、ちょっとコンビニ行って……先輩と会って……あ、お茶飲む?」
よく見ると手提げ袋には二リットルのペットボトルがあり、さつきが進めてくれる。
「お、ありがと。なんか喉渇いていたし……」
武彦は袋を受け取ると、戸棚から年季の入ったコップを三つ取り出し、テーブルに並べる。
「やっぱ夏は麦茶だよな〜」
無駄口を叩くのは妙な間のせい。どうしてここにいるのかぐらい、直ぐに出るはずなのに、彼女は言葉を濁したまま、棒立ちなのだから。
武彦は気のないそぶりでお茶を袋から取り出し、さかさまにしてごちゃごちゃと入っているスティック菓子や駄菓子を出す。
それはさつきの好きそうなものばかりだが、一つ、新発売なのかスティック場の絵が描いてあるものを見つける。
「何だこれ?」
武彦がそれを手に取ると、横から手が出てそれを奪い取る。
「やだ!」
その金きり声にあっけに取られる武彦だが、さつきはかまわずしまい始める。
「そんなに大声だすなよ……、心臓に悪いなあ……」
「だって、いきなり床に出さないでよ。食べるものなんだし……」
袋を庇うように抱く彼女はふーと鼻息を荒げていた。
「そんな、確かに部室は汚いけど、袋に詰まってるんだし、大丈夫だって……」
武彦が手を伸ばすが、彼女はその手を払いのけるかのようにする。
「なんだよ。少しぐらいくれたっていいだろ? 代金だって払うよ……」
過剰といえる彼女の反応に、武彦はしばしむっとしてしまう。