青かった日々〜切欠〜-2
「レギュラーになれなかった、か」
悟史が呟いたのは、健太の悩みそのものである。
結局、梓が声をかけたことにより、なし崩し的に健太の話を聞くことになった。
去年から野球部に所属している健太の学校は、六年生を主体としたAチーム。五年生を主体としたBチームが存在しているが、どうやらBチームのレギュラーに選ばれなかったらしい。
悟史も中学まで野球をやっていた過去があるため、その気持ちはわかる。目の前の少年程の歳の頃には、エースナンバーを貰えずに涙したこともあった。
「ちくしょう」
健太はそう呟くと、我慢出来なくなったのか、目に涙を浮かべていた。
悔しいのだろう。きっと、自分がレギュラーに選ばれるのは間違いないと考えていたのかもしれない。
少年は、話している間に思い出したのであろう悔しさを噛み締めている。
と、健太の前に何かが突きつけられる。目を上げると、悟史が甘すぎて飲めたものではないと評判の缶コーヒーを差し出していた。
「わりい、遠藤。先に帰っててくれないか」
梓にもその缶コーヒーを渡し、悟史は目線を向ける。彼女は何も言わずに受けとると、微笑みながら公園を後にした。
「頑張って」
そう、悟史の耳に囁(ささや)いて。
耳にかかる声に、少しばかり顔が赤くなったが、今はそれどころではない。
悟史は健太のブランコに座り、手に持っていた缶コーヒーを開けた。もちろん微糖である。桜木少年はブラックが苦手なのである。
「悔しいか」
ゆっくりと、健太に問いかける。最初は黙っていたが、ややあって「うん」とだけ返ってきた。
少しずつコーヒーを飲む。健太はまだ飲んでいないようだ。
「俺は、今から健太に酷いことを言わなくちゃならないかもしれない」
六割ほど残っていた中身を一気に飲み干し、十メートル程先にあるゴミ箱へと放り投げる。
缶は緩やかな放物線の後に、甲高い音を響かせてゴミ箱へと吸い込まれた。