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青かった日々
【青春 恋愛小説】

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青かった日々〜切欠〜-1

まだ、梅雨に入るには少しばかり早い五月のある日。日が沈む道を桜木悟史(さくらぎ さとし)は、ゆっくりと歩いていた。

その顔は笑顔に満ち満ちており、右手には貯金通帳が握られている。

先日入ったバイト代を確認しにいったところ、一割ほど金額が多かったのだ。

一人暮らしを始め、確かに両親から仕送りは届くのだが、最低限しかもらえない。

別に先見の明があった訳ではないが、高校に入学してからはバイトを始めた。

かれこれで一年程経つが、やはり給料とは嬉しいものである。


「何に使うかな」


目下の欲求としては、何か美味い飯でも食いたい。というよりかは、それ以外に考えることは無い。思春期の男子の食欲は推して知るべきである。

やはり肉が食いたいが、まだ暑くもないし、鍋も悪くない。


「桜木くん」


後ろからかけられた声に能内談義を即時終了、振り返る。同じアパートに住んでいる遠藤梓(えんどう あずさ)の姿がそこにあった。

梓は悟史と違い、バイトと部活を両方行っている。バイトは小遣い稼ぎ程度だとも言っていたが。

梓は何故悟史が上機嫌なのかを問い、悟史はそれに応える。なんとも、平和な日常の図である。


「ん?」


アパートまでもう少しという所、近くの児童公園に、健太(けんた)がブランコに座っていた。

悟史の下の部屋に母親と二人で住んでいる少年には、何時もの様な明るさは無く、なりを潜めている。

さて、どうしようか。

一、心優しい桜木少年は、健太の悩みを真摯(しんし)に聞き、解決へ尽力する。

ニ、心優しい桜木少年は、一人で悩んでいる健太のためにあえて見守り、健太少年の成長を促す。つまりはスルーである。

三、誰も手を差しのべてくれない状況があると教えるべく、この場を立ち去る。これにより、健太少年の成長を促す。つまりはスルーである。


(ニと三って一緒だな……)


などと心優しい桜木少年が自分の貧困な想像力という別のベクトルで悩んでいる間に、梓は健太に声をかけていた。



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