下校途中の寄り道 (4) -3
「この部屋しか取れなかったんだよ。雪が降るっていうからね。
今は仕事が繁忙期の時期だしどこも一杯なんだよ。」
幸子と純一がフライドチキンやらケーキやらを開きながら二人に言う。
正之は学ランの上着を脱いだ。下にはトレーナーを着ていた。順子も学生用コートと
緑のブレザーの制服を脱いで赤のネクタイと緑のベストとYシャツだけになった。
幸子と純一はシャンパンを開け正之と順子のグラスにも注いだ。
四人は乾杯をするとそのまま食事をしながらいろいろ話をした。
最初に口を開いたのは幸子だった。
「でも野村君は何で順子を付き合おうとしたの?」
「ええと、それは・・・。」
何とかその場しのぎの答えをしようとした時に先に答えたのは順子だった。
「私が告白したの。1年の時の校外学習でのキャンプファイヤーでフォークダンスを
一緒に踊って以来お互い話すようになったし。」
「校外学習でフォークダンスって何・・・?」
「もう忘れたの?一緒に踊ったじゃない。」
記憶から一生懸命思い出そうとしてようやく思い出した。確かに一緒にフォークダンスを
踊っていたのは順子だった。ただその頃の正之はW高への入学で毎日が気分が悪い状態だったので
よく覚えてはいなかったのだ。
「ああ、そうだったよな。」
「んもう、野村君大丈夫なの?」
「まぁ野村君もいろいろあったんだよ。W高はサッカー部と陸上部が県大会出場だっけ。」純一が正之をフォローしてくれた。
話も盛り上がっていたが時計を見るともう17時を回っていたのでここでお開きにして
正之と順子は帰る事になった。幸子と純一が見送りのために駅まで向かう事になった。
「あれ?お姉ちゃんは帰らないの?」
「うん。純一としばらく会えないから今日は泊まっていこうって。」
廊下を歩きながら幸子と順子が話す。ウィークリーマンションの玄関を出ると
雨は雪に変わっていて既に10cmぐらい積もっていた。
「うわあ!降っているなあ。かなり積もっているな!」
正之が驚きの声を上げる。既に道路はシャーベット状態になっていた。
マンションの近くにあるターミナル駅まで4人は転倒に注意しながら歩いた。
しかし電車は既に止まっていた。駅員が客に声を荒げて説明している。
「只今積雪による信号機故障のために上下線で運休しています!」
積雪により信号の回線が凍結した上に雪の重さで切断されたのだ。
復旧の見通しは立っていないという。
「マジかよ・・・。」
「どうしょう・・・。」
正之と順子に不安が走る。駅前のロータリーのタクシー広場は人だらけでタクシーは
一台も来ていなかった。
「じゃ、俺のウィークリーマンションに泊まるといいよ。仕方ない。緊急事態なんだし。」
「ええ!?」
正之と順子はびっくりして大声を上げた。
「それしかないわね・・・。とりあえず野村君、家に電話してきな。」
幸子が正之に話しかける。
「・・・わかりました。」
「私も順子と一緒に家に電話してくるわ。純一、野村君の事頼むわ。」
「わかった。」
公衆電話は人が既に並んでいて10分もしてようやく正之の番となった。
テレホンカードを出して家に電話をかける。
出たのは母親だった。